不完全燃焼の可愛い子ちゃん達 | ナノ



いっそのこと降ってこい(沖田と土方)
2012/07/19 08:54

目を閉じていることにも疲れた。寝転がっていることにも疲れた。
布団から抜け出したあとで、次は屯所から抜け出した。外は冷たかった。何も干渉してこない。夜はただ、そこにあった。昼間には日光を跳ね返すアスファルトだって、今は大人しく踏まれている。
それでも江戸は都会で、屯所から少し歩くと、夜はもう冷たくなくなった。賑わう街を遠巻きに眺めながら突っ切る。
いつも子どもが走り回っている公園には、誰もいない。ひんやりしたベンチに腰かけて夜空を見上げる。相変わらず、空気は冷たい。
いくつか同時に、星が流れた。武州に比べるとかなり見える星は少ないのに、珍しいことだ。しかしあまりに幾度も流れるので、これは幻覚なのでは、と思い始める。流星群だったっけと考えるが、それにしては空を見ている人が他にいないのはおかしい。やはり幻覚なのかもしれない。にしても、なぜ幻覚なんてものを見ているのか。ごしごしと目を擦り、もう一度、流れる星を見る。
ふいに背後から人が近付き、すぐ左後ろに立った。殺気をまるで感じなかったため、沖田はのんびりと振り返った。

「土方さんじゃありやせんか。」

「何やってんだ、今晩は非番だろう。」

そういえば土方は夜勤だったように気がする。現に彼は隊服だ。あんたにはこの流れ星が見えますか、と聞くべきなのか。冷たい呼吸をしながら、沖田は考えた。



(2012.7/19)



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