基一は俺を愛していると言う。俺はそれに返す言葉がまだ見つからない。透は焦らなくて良いと待ってくれているがなるべく早く答えたいと思う。なんとなく答えは出ているけれどくちに出せない。自分も基一も信じられない。
あの後差し出された手を握ることはできなかった。途中まで伸ばした手と手の後もうすこしの距離を埋めたのは基一。
聖は抱きしめろと言えば朝まで抱きしめてくれたしキスをしろと言えば腰がくだけるまで舌を絡めてくれてその先だってさせたけれど何も言わなければ何もしてくれなかった。だからこんな風にふいに後ろから抱きしめられることも命令していないのにキスをされることも無かった。聖とだけ居たときにはそれが当たり前で主導権は俺が常に握っていたから予測できない行動にはなかなか慣れない。求めたことはあっても求められたことはない。がちがちに固まる俺を基一が笑う。笑いかけられることだって聖はしてくれなかった、こんなに聖は暖かくなかった。俺に触れることを許していたのは聖だけだったからひとがこんなに暖かいだなんて知らない。こんなやさしい目を俺は知らない。
「どうした?」
「…なんでもない」
恐る恐る振り返ってベッドに寝そべって雑誌を読んでいた基一のがっしりとした背中に腕をまわした。聖は言うまでだらりと腕をたらしたままだったけれど基一は抱きしめ返してくれる。
基一と聖は何もかも違う。聖よりも基一は背が高いし見た目もごついし何よりあたたかい。今まで遊んできたもので一番思い通りにならないのに不思議と苛立たしさがない。それに壊したいと思えないのだ。振り回されることは嫌いでそんなおもちゃはいつもすぐに壊していたのに振り回されるのもこいつなら悪くない気がする。ずっとこうしたかったのかもしれない。頭を撫でる手が気持ちよくて目を閉じる。紙がめくられる音。カーテンがはためく。ずるずると力が抜けて、基一の膝に落ちていく。
怖いのだ。もしも俺が今基一を失ったとしたら俺が何をするかわからない。きっとひどいことをして何も思わないだろう。それが嫌だ。嫌われたくない。脳みそがぐちゃぐちゃになっていく。それだけは、それだけは、やっと手に入れかけているのに。聖みたいに間違えないように慎重に、ゆっくりと俺を愛してもらわないとだめだ。方法なんてわからない。それでもがんばって俺をこの先ずっと見ていてもらわないと。
「遥也、眠いなら寝ちまえよ」
口元に触れた指を噛む。舌を撫でる固い感触を感じながら目を閉じる。目をあけてもまだこのままでいてくれ、そう願いながら。
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