俺の学園は周りにおんながいないからか当然のように同性を好きになる。顔がいいやつはアイドル扱い、ファンクラブのような集団すらある。
その中でもトップクラスなのが生徒会長の鷹觜遙也だ。彼は何かひとを惹き付けるものを持っている。黒髪にしろい肌が良く映えて、くっきり二重の目にうすいくちびるは整い過ぎて人形みたいだ。そんな遙也といつも一緒にいたのが副会長の望月聖。彼も柔らかい茶髪とは反対に無表情で人形じみていた。けれどふたりはファンクラブの数も多い。一年からの生徒会入りに反発するやつも少なからずいるがうまく学園をまとめている。
あの転入生が来たあとも表向きはそうだ。いつかの代のようにレイプやリンチも起きず平和な学園を保っている。ただ変わったことは会長と副会長が一緒に居なくなったこと、副会長は無表情ではなくなりときどき転入生に笑いかける姿が見られるようになったこと。ふたりはしあわせそうで見た目も良いから周りも応援している。その代わり遙也は無表情に磨きがかかって痩せたけれど恐らく気づいているやつは少数だろう。

見回りと言って遙也を探しに裏庭に来た。風紀委員長は見透かしたようにそのまま帰っていいよとねこみたいに笑っていたから遙也を見つけたらそのまま連れて帰ることにする。無理矢理だろうがなんだろうが何年もこの日を待ったのだ。絶対に遙也を俺のものにする。そうしないといけない。本校舎から離れたこの人気のない裏庭によく休みに来ることは知っていた。案の定芝生の上で無防備に眠る遙也を見つける。顔色は悪い。
「ひじり?」
寝ぼけたような掠れた声に笑みがこぼれた。
「残念ながら俺だ、遙也。副会長をまだ忘れられないのか。未練たらしいな」
「!基一、なんでここに」
遙也にゆっくり近づいていく。殺気のこもった目にくちびるがつり上がった。
「副会長は飽きて捨てたか。それとも捨てられたのか。どっちだ?」
「うるさい、質問に答えろ。なんの用だ」
「かわいそうに、会長さまは振られたのか」
「だまれ!だまれって言ってるだろうが!」
殴りかかってきた遙也の拳を掴んで乱暴に芝生に押し倒す。
「惨めだな遙也、まるでだだっ子じゃないか。なあお前捨てられたんだろ」
「っ、違う、あれはもういらないから、言うことを聞かないやつはいらないから俺が捨てたんだ!知ったくち聞くんじゃねえ!」
めちゃくちゃに暴れる手足は細い、折れてしまいそうだ。顔を近づけるとこどもが泣き出しそうなくらい恐ろしい表情で睨み付けられた。
「見てたら嫌でも分かる。副会長は楽しそうに笑ってるのにお前は脱け殻じゃないか。こんなに痩せて、ネクタイも結べてない。副会長がいなきゃ何もできないのか?」
きれいに整えられていた爪もがたがたになっている。
「認めちまえ遙也、いらなくなったのは誰だ?分かってるんだろう、捨てられたのはどっちだ?」
ぎろり睨む目に怯えが滲み始める。お坊ちゃんは打たれ弱いからいけない。
「さびしいよなあ、ずっと肌身離さず持ってたものがなくなっちまったんだから」
「うるせえよ」
「捨てられた気分はどうだ?置いていかれた気分は?」
「何とも思わない」
「嘘つけ。悲しいんだろ?安心しろ、失恋したら皆そうなる」
失恋に反応して跳ねる肩に内心ほくそえむ。もうすぐだ。
「勝手なこと言うな」
「特にお前は昔っから聖、聖だったから余計つらいよなあ」
「…黙れっつってんだろ」
「慰めてやるよ」
ぽかんとする遙也の片腕を離してほほを撫でる。まずは肉を食わせよう。
「俺は聖がしてくれなかったこともしてほしかったことも何でもしてやれる」
じっとこちらを見る黒目がきれいだ。早く俺のものにしたい。
「なに、いって」
「俺は聖とは違う。お前を愛せる」
自由になった片手は動かない。もう片方も離して両手で遙也の顔を固定した。
「だから俺のものになれ、遙也。そうしたら欲しいもの何でもやるぜ」
のし掛かっていたからだの上から退いて立ち上がる。横たわったままの遙也を見下ろして手を差し出す。
「掴め遙也。こっちに来い」


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