昔から俺は何でも持っていた。親は金をたくさんくれたし三男坊である俺には長男よりも自由があった。何かに不自由したという記憶はない。
幼い頃の俺の世界はカラフルな広い部屋ところころ入れ替わる無表情の使用人、それと把握できないほどあったおもちゃで構成されていた。俺はただその中に座ってひたすらお気に入りのぬいぐるみやミニカー、絵本を飽きるまでいじくりまわしては壊すことを繰り返していた。友達は両親のとりまきのこどもたち。彼らもしょっちゅう変わり名前も顔も覚える前にいなくなった。家族との思い出は公的なパーティぐらいだけれどそのことに不満を持ったことはない。むしろ英才教育を受けさせてもらったしこういう家なのに跡を継げなどと言われたこともあまりなかったから感謝している。
そんな恵まれた俺に6歳の時誕生日プレゼントとして渡されたのが望月聖だ。プレゼントがひとなのかと今なら思うが当時は特に疑問に思わずありがとうございますお父様とだけ言って受け取って部屋に戻り別の誕生日プレゼントの方が聖よりも楽しかったからそればかりいじくって聖をいじりはじめたのは誕生日から2、3日ほどたってからだった。
そのころはぬいぐるみよりもミニカーや積み木の方がお気に入りで、ぶっちゃけ聖の魅力はそのきれいな顔だけだしひとで遊ぶなんて初めてでどうしたらいいのか分からなかったけれど折角父がくれたものだからまあまた2、3日遊んでみるかな、程度だった。
それなのに聖は意外と遊びがいがあって何よりも気に入ったところは俺のものなのに俺に媚びようとしないところだ。笑いも泣きもしない聖は今まで友達として会ったやつらとは全く違い変に俺を誉めたり擦りよってこず、髪をひっぱっても骨をおっても何の反応も返さない。そんな彼に俺は夢中になった。いつかこれを俺のものにしたいと、そう思った。
後から知ったことだけれどどうやら遅まきながら俺の情緒発達に不安を覚えた母が同い年のこどもと遊んだらましになるんじゃないかと思ったときに調度父が潰した会社の社長夫妻が心中してひとり息子が遺されたらしい。今までの友達のように親の意向やらなんやらに振り回されることもなく、たとえ他のぬいぐるみのように壊されたとしても面倒なことにならないということもあって聖は俺の誕生日プレゼントとなったのだ。人権なんてかけらも無い話だが権力だけはばかみたいにある家だから出来たんだろう。
そんなこんなで哀れ聖は人形として俺のものになり、大方の予想に反してあのカラフルな部屋が寮のモノトーンな部屋になっても俺の人形としてに置かれている。
だからあいつで遊び始めてもう10年になるのだ。今や聖は生徒会副会長で俺は会長だ。月日が流れるのは早い。高校入学してすぐの生徒会就任だったが初等部の代表会からずっとふたりで会長・副会長をやってきたし生徒会メンバーも一緒で憎たらしいほど多い仕事もいい加減なれた。この男子校は人気投票で生徒会が決まるから顔が良い俺たちになることは高等部に入る前から確定同然だった。流石に入学してすぐだとは思わなかったが。仕事はかったるいが授業免除がついてさぼり放題でお得である。それに誠也でいつでも好きに遊べるから生徒会もそれなりに楽しい。あと3年は飽きない、多分。
そうして6月に生徒会就任式を終わらせた後中間テストと期末テストも無事にすませ毎年と同じように生徒会の仕事をこなしつつ聖で遊び、幼なじみの風紀副委員長と喧嘩した苛立ちも聖で解消してそれなりに楽しい夏休みをすごせた。
ただひとつ違ったのは転入生がひとり来ると言うことだけ。けれどそれが俺の全てを変えるなんて思ってもいなかった。
これからもずっとこうしていけるのだと、疑いもしなかった。


ちくたくちくたく時を刻む鰐


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -