バレンタインデー。日本だと製菓会社の売り込みとお祭り好きな国民性が合わさった2月の一大イベントだ。最近は両親と友達にあげるパターンが一番多いらしいけれどやっぱり恋人同士のイベントのイメージが強い。そう、恋人の。つまり去年は貰いっぱなしで適当にやっていたが今年は、今年からはそうもいかないということだ。恋人ができたから。ひとつ下の見た目はかわいらしいおとこ。どうしておとこと付き合っているかは好きになったものはしかたないとしか言えない。周りもおとこ同士で付き合っているから違和感はない。友達で副会長の昭も応援してくれた。今回のバレンタインも昭が言い出したのだ。いわゆるおんな役をしているのは俺だから俺がチョコを作るべきだと。このごろは逆チョコもあると言ったけれど聞いちゃいない。結局押しに押されてトリュフを作ることになった。料理なんかろくにやったことはないが料理上手の昭と一緒に作ったから大丈夫なはず。ちなみに昭は彼氏の不良くんにあげるらしい。もうひとつちなみにその不良くんは俺の恋人の柊と友達で聞いたと言うか見ていたら分かったというか不良くんがおんな役である(休日明けは顔が青いし動きがぎこちない)。ならなぜ昭が俺と一緒にチョコを作ったのか分からないが恐らく俺が初めての料理で焦るのを見たかったんだと思う。残念ながら俺は優秀なので最初こそ戸惑ったが湯煎も丸めるのも全てスムーズにこなせた。そうだ。作る段階はスムーズだった。笑顔で舌打ちする昭に笑顔を返せるくらい余裕だった。不良くんが来る前に調理会場兼昭の部屋を出て隣の自室に戻るところもスマートにこなせた。けれど今。柊が来るのを待っている今の俺は最高にかっこわるい。昭が居なくてよかった。リビングみたいな部屋のソファの右端に座り真ん中に座りテレビのチャンネルを無意味に変えローテーブルに置いたトリュフの位置を吟味し携帯の開け閉めを繰り返している。呼んだ時間は3時。現在時刻は2時45分すぎ。あと15分が恐ろしく長く思える。時計を睨み付けても変わらず秒針は動く。今の俺はかっこわるいのではなく恥ずかしくないか。彼氏に渡すためにチョコを丸めてパウダーシュガーで手を白くしながらせっせと形よく作るところまではまだいいとしてかわいいとはとてもじゃないが言えやしないおとこがおとこにきれいにラッピングした甘いお菓子を渡すのはいくらなんでも無くないか。受け取ってもらえないことはない、絶対に。柊も薄々は勘づいているだろうし。といいか恥ずかしいと思うことが恥ずかしい。そうださっきまでの余裕を思い出せ俺、なんてことない顔でぽいって渡せばそれでおしまいだ。いやでもそれもどうなんだ。かっこつけみたいじゃないのか。だからといって照れながら別に作ったら余っただけだし…はツンデレか。ただのツンデレだ。違う。どうする、どうする俺!webに行ったら答えがあればいいのに。
ああもう一旦落ち着こう。水飲もう。てのひらに人を書いて飲み込んで立ち上がったときチャイムがなる。微妙に間の抜けた音。ぎしり首を回して玄関を向く。ぴんぽーん。もうひとつ鳴った。中腰で固まった体制を直立にして剥げた金色の実は有能かもしれない翻訳ロボットのようにぎこちなく玄関へ向かう。そんなに広くもない廊下を過ぎるころにはなめらかに動けるようになりドアを開くと俺のこめかみくらいの背丈をしたかわいらしいおとこが微笑んでいた。
「こんにちは先輩、少し早かったですか?」
「いや…平気だ」
本当はもうすこし後でもよかったようなでも遅くなると余計辛くなったような。入っていいぞ、言ってリビングに行く。鴨の親子みたいに並んで廊下を通る。2、3メートルの距離がきまずい。後ろは見えないからどんな顔をしているのか分からないのがなんとも言い難い空気を作り出している。俺も柊も何も喋らないままドアを開けて踏み入れた。ローテーブルに置かれた赤い包み。テレビはのんきに笑い声を流している。立ち止まった俺に不思議そうに柊が先輩、声をかけた。ええいもういい、男は度胸だ、まっすぐ赤いものをひっつかんで振り向きつきつける。
「これやるから三倍返しな」
ぱちり瞬きをしてふんわり笑う柊をみてられなくて目を伏せる。なんだこれめちゃくちゃはずかしい。
「ありがとうございます先輩、顔赤いですけど平気ですか?」
「赤くない」
「いや赤いですって」
「元からだ」
「えー。もっとよく見せてくださいよ」
ぐいっとそむけていた顔を片手で無理矢理固定される。
「ああほらまっかっか。かーわい」
楽しそうな柊に何も言えない。もういやだ。ヴァレンタインなんか何であるんだ畜生。
「ねえ先輩、あーんしてください」
「は」
「いいでしょ?」
よくないよくない。思わず後ずさっても容赦なく追い詰められていく。
「ひ、ひいらぎ…?」
あっけなく透明のテーブルに押し倒された。柊のぎらついた目に映るおれは涙目。
「お返し、一ヶ月先までなんて待たせませんよ、今いーっぱいお返ししますから、ね」
とどめに名前をささやかれたらもう俺に抵抗なんてできない。おとなしくまぶたをおろして降ってくるチョコにも負けないくちづけを貪るしかないのだ。

ビターチョコレートは食べられないの


七瀬さん遅刻すみませんでした!バレンタインどころかホワイトデーも過ぎたっていう…本当すみませんでした…。あまあま、だと思いますたぶん。砂を吐いてくれたらうれしいです。苦情受け付けてますんで遠慮なくどうぞ!
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