2012/03/08 21:29

2012年3月8日(木)

俺は死ぬ。どうして死ぬかは書かない。どうでもいいからだ。俺は死ぬ。申し訳なさそうに一輪挿しの紫の花が揺れる真っ白な病院の個室、ここで死ぬ。文字が震えているのは怯えているせいじゃない。痛いのだ。もう麻酔もあまり効かなくなった。どこが痛いのかも分からない。今日は背中の方が一番痛い気がする。頭かもしれない。それもどうでもいいことだ。視界の端で紫が揺れる。あまりに殺風景にすぎた俺の部屋を哀れんで看護師が持ってきた紫。あいつが大嫌いな色。今はもしかしたら好きになっているかもしれない。この手紙、日記、どちらでもいいが、これの文字が紫で書かれているのはそう言う理由だ。あいつが嫌いな色。青いこの紙に紫は読みづらいけれど仕方ない。誰かに宛てたものでも無し別にいい。ならばこれは日記なのか。闘病日記。闘ってないけれど。俺はやる気を顔も覚えていない母の胎内に置いてきてしまったらしいから。あいつが言っていた。まあいいか。思い立ったが吉日、早速ノートの表紙に闘病日記と書く。紫のマーカーは無かったから0.38のボールペンで書かれた歪んだ題名。適当だ。あいつなららしいな、そうちょっと片頬を上げて目をきゅうと細めて笑うだろう。あいつ。むらさき。あいつの名前は紫。自分の名前の色があれは大嫌いなのだ。誕生日やらなんやらの度に紫色グッズを送られては眉を微かに、けれど俺にはすぐ分かるくらいにぐぐっとしかめていた。俺以外分からない表情。案外真面目なあれはまっかっかになったけなげで可憐なやつが振り絞った勇気を断ることが一度もできなかったから。ばかだと思う。いつもたくさんの紫グッズを貰っては頭を抱えていたのに。あんな、あんな不良のなりをしたあいつは意外と王子様みたいと言われた俺よりよほど紳士的だった。いつだって。もどかしいくらいに。まだあの判りづらい困った顔で頭を抱えているのかもしれない。すこし笑った。痛みがました。あいつのせいだ。ちくしょう。残念だが続きはまた明日。起きられたら、だけど。



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