景色




「俺さ、もうすぐいなくなるよ。シズちゃんの前からいなくなるよ」

 ああそうか、そりゃあ良かった。清々する、元々俺は手前が嫌いだったんだ。本当なら今すぐにでも殺してやりてえ。けど、でもそうしたら幽とか、トムさんとか社長とかヴァローナとか…とにかく迷惑がかかるからそうしないだけで、もし世界に俺と手前だけしかいなかったら手前はもう存在しない。ノミ蟲しかいない世界なんて虫酸が走る苛々する、だからそうなったら真っ先に殺す。一人は寂しいかも知れないが、手前と顔合わせるよりは良い。

「ねぇ、いつも思うんだけど。シズちゃんのそれって俺には熱烈な告白にしか聞こえないんだよね」

 閉じろ、今すぐその不快な口を閉じろ。手前本当に頭沸いてんのか、頭は良いんじゃなかったのか。ああ、沸いてやがるから頭良いのか。何だそれ、やっぱり訳がわからねぇ、ムカつくなぁ。手前。
 よし、殺す。今すぐ殺す。殺すから俺に大人しく殴られろ。

「アハハ、いやだよ。ほんと単細胞。結局殺すしか言う事ないの? それに言ったでしょ、俺はいなくなるんだよ」

 だからそれがどうした。俺は手前を殴りたい。それだけだ、俺は手前を殴りたい。殺す、殺す殺す殺す。
 いなくなるなら俺に殴らせろ、いなくなるなら別に構わねえだろう、手前が勝手に消えようが俺が殺そうが同じだろう。よし今すぐ殴り殺す。大体ノミ蟲野郎のくせに何だ。いなくなるとかほざいてそれで綺麗にいなくなった事が今までにあったか。

「ははは。そっか。頑張って言いにきてあげたのに。ねぇ本当、化物にはヒトの気持ちはわかんないんだね」

 うぜぇ。黙れ。

 いちいち俺の前に面見せんなノミ蟲ならノミ蟲らしく見えねぇとこで跳ねやがれ。俺は手前さえいなけりゃ平和なんだよ手前さえいなけりゃ静かに暮らせんだよ手前さえいなけりゃ

「あーあ、もう、わかった。わかった、だから黙るよ喋らなくなるよ。シズちゃんにはさ、日本人の尊い情けも通用しないの? 最後にするよ、それにさぁ嫌でも最後なんだよねぇ。ねぇシズちゃん。俺はさ、」

 俺はな、手前みてぇな奴が大っ嫌いなんだ。裏でコソコソやりやがって、手前のお遊びに他人振り回して、挙げ句に人が好きだとか言って。手前が好きな人って何だよ。人の何が好きなんだよ、どこが好きなんだよ、何で好きなんだよ。

「あは、それ聞いたよ。何回も。それでいつも教えてあげてるでしょ。『シズちゃんには理解できない』って」

 そのにやけた面が気に入らない。そう、いつか言ったのと似たような顔で臨也は言う。
 似てるのに何だか違う顔で言葉を吐く臨也の声を聞く。

「俺の事、わかろうとなんてしてくれないでしょ。ならシズちゃんには理解できない。絶対」

 そうか、生憎理解したくもねぇな。

「少なくとも、俺はヒトが好き。安心しなよ、俺は君は好きじゃない。化物を愛でる趣味はない」

 ――ああそうかよ。結構だ。



 それであれから随分経った。世の中はあんまり動いていない。だって世界はまだこの出来事を24時間前だと言う。
 つまりは一日がこんなに濃いもので、こんなに重たいものだったという事だ。たったの一日でも、こんな風に過ぎる事もあると、それがわかっただけ臨也に意味もあったって事か。

(ああ、そういえば、)

『だけどこれだけ言っとくよ。今泣いてる君は、化物とは呼べないかな』

 だったっけ。去り際に吐いていきやがったのは。最後まで理解出来ねえ野郎だったなぁ。今まで散々人の事化物呼ばわりしておいて、今更何言って…って、もう今じゃないか。えっと…ああ、そっか一日経ったんだから昨日。昨日まで、昨日まで散々人の事化物呼ばわり…しておいて、

(――あれ?)

 なんだろう、何か引っ掛かるな。くそ、いなくなったってのに何でまたノミ蟲の事なんか考えなきゃならねぇんだ苛々する。

 けど。けど、けど…?
 あれ
 なんだそれ、
 なんだそれなんだそれなんだそれ。なんだ、それ。















・なんて事ない、景色にも為れず




両手を広げてここから落ちても
誰も助けちゃくれないでしょう
だけどもし、
それを見ていたのが君だったら




臨也が自分の死ぬ時を知っていたら
多分静雄に会いにくると思う
ラブラブも好きですが
くっつかないのも好きです
110309


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