盲目




「無理だね」
「やっぱり?」

 全てはヒトを愛するため。
 結局は、君を愛するため。


「珍しく臨也がウチに来たいなんて言うから何かと思えば。そんな事出来ると思った?」


 これは思い付きだった。
 もし俺が女の子だったら、シズちゃんはどうするだろうと。
 手っ取り早く女になれる方法が――あるわけがないのだが、何となく闇医者を訪ねて今に至る。
 運び屋は仕事中。当然その仕事を依頼したのは自分である。
 無論、理由は話を聞かれたくないからだ。

「出来るとすれば、かな」
「偉く見られたもんだね。無理だよ。薬一つであら不思議って、そういうのは妄想の世界の話だよ」
「何だ。使えないね」

 正直、心の隅ではこのままでも捨てられない自信があるし、それと同じくらいの心の隅には、そうなったらより繋ぎ止めておけるとも思っている。
 だって世間にとってはソレが普通なのだから。

 普通なんて気にしない、今更臨也も普通になれるとは思っていないし、なろうとも思わないが静雄が絡むとまたそれは別の話になる。

 もし、もし、が頭を廻って不安になって、どうにも収まりが着かない。
 その結果がこの問である。

『数時間で良いんだけど、女の子になれる薬ない?』


「君がそんなに弱気だなんてね。何かあったのかな?」
「いや?そんな事しなくたって、シズちゃんは俺を捨てたりしないよ」
「捨てるなんてねぇ、君が捨てる側ならまだしも、捨てられる側なんて初めてじゃないかい?」

 新羅はスプーンでマグカップの中身をかき混ぜながら笑う。
 臨也らしからぬ受け身な発言に自らの茶化しで鳥肌を立てる新羅だが、その表現がピッタリなんだから仕方無いだろ・と睨まれ、更に身震いする。
 だかそんな表現をするほどに粟楠の一人娘だとか、ロシア女だとか、静雄を取り巻く環境が臨也の視点を狂わせているのは紛れもない事実で。全く観察とは程遠い状況である。

「首なしでも愛せる人間ばっかりじゃないんだよ。君くらいに懐が広ければ良かったんだけどねぇ」

 出されたコーヒーに口を付けつつ、臨也はやれやれと片手を振る。
 まるで悪戯の内の、台本通りの台詞の一つとでも言うように、オーバーなリアクションと共に吐かれる言葉に色は無い。
 面白くないと思っているのが丸わかりの表情に、新羅は少し困った顔をする。

「そう言うけど、臨也を愛してるなんていう時点で十分に広い懐だと思うけどね?」
「言ってくれるね。俺なんかシズちゃんに比べたら相当にマトモな人間だよ」
「脳味噌以外は、なら納得しよう」

 で?と眼鏡の向こうから此方を見る新羅に、観念したように溜息を吐くと、わかったよ、とマグカップを置いた。

「シズちゃんがさ、好きなんだよね」
「知ってるよ」
「でも大嫌いなんだよね」
「ああ、そうだね」
「死んでくれないかなぁ、って思ってる」
「うん」
「何考えてるかさっぱりわかんない」
「はは、だろうね」

 淡々と言葉を紡ぐ臨也に、淡々と言葉を返す新羅。

 次の台詞は台本には無い。

「わかんないから、俺がどうすれば良いんだろうって思って」
「…へ?」
「俺の好きと、シズちゃんの好きは一緒かな?ねぇ新羅」

 切なそうな、とても人間観察を趣味にする『折原臨也』とは思えない顔を一瞬見せて、臨也は勢いよく立ち上がる。

「あーあ、無駄な話しちゃったかなぁー。結局女の子作戦は失敗だし、ここは百歩譲って女装で勘弁してやろうかな?じゃあね新羅、ご馳走様!」

 ぐいっと伸びをして、臨也はいつもの軽やかな足取りで玄関へ向かう。

「あ、そうだ新羅、シズちゃん俺がメイド服とか着たら喜ぶと思う?セーラーのが良いかな?」
「な…、ナースでも良いんじゃない?」
「さっすが変態!ありがと、じゃあねっ!」


 呆気に取られて無意識に自ら思いもよらない吃驚な発言をした新羅だったが、一瞬見せた臨也の表情にショックにも似た何かを受けて動けなかったのは、ある種の幸いと言えた。

 中学からの付き合いだ、長い付き合いと言っていい。その中で新羅の臨也に対する例えはそう

『反吐が出るって感じかな』

 新羅は呆然とただ臨也の足取りを眺めるばかりで、返す言葉など見当たらない。

 先程の返しは正解だろうか、不正解なら何を言えば良かっただろうか。いや、あれで良かったのかも知れない。


 ガチャン、と扉の閉まる音がやけに大きく響いた。














・盲目的絶対願望



それはそれは最低な君の
愛の使い分け





これを書いた今の私は
熱が38度ありまして
本当に頭が沸いています
もうこれギャグでいいや
101226


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