消毒!
船のコーティングが済むまでの、ほんの数日。長いような短いような日数は、それはそれで暇を潰すのに苦労する。
酒で騒ぎたい質でもないし、その辺の雑魚は雑魚だし、情報集めはクルーに任せてあるし、観光するガラでもない。
面白い事などほとんど起こらない。先日の一件で多少の縁が出来た麦わら屋と真っ赤な馬鹿には、会えばちょっかいを出しはしていたが、まさかなつかれるとは思わなかった。しかも馬鹿な方に。
ほら今日も逆立った、赤い色。
「おー、ユースタス屋。またいつもの迷子か」
「だから迷子じゃねェって言ってんだろ」
天候は快晴。する事も無く甲板で読書に勤しんでいると、恰も自然にやって来た赤。
凶悪な面に悪趣味な化粧をして、病的な白さという見てくれではあるが、なつかれればそれはそれで可愛いもんで。
本人が何のつもりで来ているかは知らないが、クルーの間ではもう警戒すらされていない。敵同士でもこの通り、堂々と船内を歩かせている始末で。
「御用は?」
「特に無ェ」
「そうかよ、まァ茶でも飲んでけ」
「テメェの船で出たモンは口にいれんなってキラーに言われた」
「は?何言ってんだ?」
…コイツもしかして予想以上に馬鹿なのか?
「…今何か馬鹿にしたろ」
「わかんのか?愛されてるねェ」
「愛してねェよ。つかやっぱり馬鹿にしたのかテメェ」
眉を寄せようにもその眉自体無いから笑える。不機嫌になったのは声の調子でわかるが、常にそんな顰め面で疲れないのだろうか。
「意地張んなよ、足しげく通ってるくせに」
「…るせェな、暇なんだよ」
厳ついくせに妙に子供っぽい事は見ていればすぐにわかる。
本人は自覚など無いだろうが、なるほど、それなりに入れ込みたくなるような人間ではある。
暴れられたらどうしようもないが、あの殺戮屋が過保護にするのも頷ける。
「暇ねェ。…おい、それ出せ」
「は?」
「腕だ、暇なんだろ?手当てしてやる」
ふと見れば、ふわふわしたコートに通されていない方の腕に刃物で付けられたような傷があった。
血は止まっているようだし、深くもなさそうだがなかなか大きな傷で。
親切に手当てを申し出れば案の定ご丁寧に嫌そうな顔。
「要らねェ」
「何だと?」
「放っといた方がマシだ」
「大丈夫だ。注射なんかしねェ」
「そうじゃねェよ!!」
「おれの消毒は滲みるんだ。付けてやるよ、無料で」
少々無理矢理に腕を掴むと、掴んだ自分の肌の色と比べて随分白い事がよくわかる。
確か南海出身だったはずだが、その化粧通り、日光が苦手とか言うんだろうか。
「いい子だ。我慢我慢」
「殺すぞ」
「ベポ! 救急箱取ってくれ」
船首近くで釣糸を垂らしていたベポに呼び掛ければ、お決まりの返事と共にあっという間に船室へと駆けていく。
「これどこで貰って来たんだ?」
「さっき、賞金稼ぎに」
腕を掴まれたまま大人しく待つ姿が、待てをする大型犬のようで吹きそうになるがここは堪える。
今日は拗ねさせたいわけではない。構ってやりたいのだ。
「ぼーっとしてたんだろ」
「してねェ。油断しただけだ」
「変わんねェよ」
掴んだまま親指で傷をなぞれば僅かに抵抗が返る。
血の乾いた傷は生々しいが、色白に黒ずみかけた赤色がよく映えて何となく興奮した。
「…触んな痛ェ」
「触診?」
「馬鹿か、ヤブ医者」
「切るのが専門なんで」
コーティングが済むまであと何日だろうか。
あと何回こんな思いが出来るだろうか。どうすればおれの物になるだろうか。
気付けばそんな馬鹿な事を半ば本気で考えている自分がいる。それは紛れもない事実である。
まさかこんな気持ちになる日が来るとは。心がざわざわする。掻き乱される。
「ちっ」
「?」
悔しいから思いっきり消毒してやるか。
・心臓に悪いから、消毒!
色んな顔が見たいなんて
狂ってるか、おれは
ほのぼのさせたくて
原作を無視しています
すみません
これでキドロです
ローは右です
すみません
101215