寒さに
寒い寒い寒い。
月明かりで部屋は薄ぼんやり。どろりとした眠気で重たい瞼。浮上した意識がうろうろする。
冷たい空気と軽い身体に、寝るとき被った布団が無い事に気付いた。
「…って、テメェかよ」
手を浮かせた途端、布団より先に違うものを見付けてしまった。
自分のすぐ真横でぬくぬくと布団にくるまる塊を薄目で確認する。一緒のベッドで布団を占領するとは良い度胸だ。布団なんかより人間の方が温かいと知らないのだろうか。
額に流れた髪を撫でてやれば、ぴくりと反応する。
丸くなって眠る様が意外だと笑ってやったのはいつだったか、随分前の事のように思う。
まだお互い顔を合わせて数日だというのに、その存在が生活に溶け込むのはあまりに早くて、こんな不法侵入すら愛おしい。
図に乗るのが目に見えるから、言ってはやらないが。
「おいコラ、寒ィんだよ」
ぺたりと頬に手を当てる。自分の体温が低いのは承知の上で冷えた指先を押し付けてやると、明らかに起きている反応が返る。
「何ひとりでイイコトしてんの?おれは寒いんだけど」
頬より遥かに温かい首元に手を滑り込ませつつ、その体温を奪ってやろうと上体を起こすと、同時に頭に鈍い痛み。
ちらりと部屋の壁を見れば見慣れた赤いコート。服の型崩れを気にする余裕に少し妬いた。
「なァテメェ起きてんだろ…。オイ、っ!?」
くらくらする頭を抑えつつのし掛かってやろうとその肩を掴んだ瞬間、更に鋭い頭痛が走る。
視界に入った赤と天井に、ああ倒されたのかと冷静に思った。
「…なんだよやっぱり起きてんじゃねェか。何?今夜はどうしてほしいの?ユースタス屋」
「別にそんなんじゃねェよ」
ガンガンしてきた頭に軽い吐き気がする。だがそれに構っている暇は無い。動いた目の前の赤におれの意識は釘付けになる。
眠ったお前も良いけど、やっぱりおれはお前の目が見たい。
「じゃあ、どんな?」
くく、っと自然と喉が鳴る。湧き上がる狂喜。
だるい腕を首に絡めて、無意識に熱を強請る。
「…お前がさ、呼んでる気がしたからよ…来てやった」
「はは、何だそりゃ」
こつりと当たった額と額。合わさった唇と唇。流れ込む体温。肌に溶ける温かさと体に掛かる重みが妙に生き物臭くて笑える。
「今晩は冷えるだろ。どうせお前、寒ィ寒ィ言って寝れねェんだろうと思ってな。…ほら、冷めてェ足」
横になったキッドに抱き込まれ、足で足を掬われて引き寄せられる。すりすりと分けられる熱が何だか気恥ずかしい。
背中に回った腕にがっちり包まれて、首筋に顔を埋めるような密着した体制に思わず心臓が跳ねた。
こんなに真面目に甘やかされるのは何だかむず痒いが、抵抗する気にはなれない。冷え切った身体に人肌が気持ちいい。
「…妙な気分になってんじゃねェだろうな」
「馬鹿か。今日はあやしに来てやったんだ」
穏やかになった頭痛に他人の鼓動。
生き物の圧迫感。匂い。呼吸する音。
たまにはこんなのも良いかと、ローは目を閉じた。
・寒さに、赤
君が隣にいるならいつだって
最高の夢が見れそうだ
あまあまで!
101209