世界




「こんにちは、ユースタス・キッド」

 人は悪趣味だとか何とかそう言うけれど、これって最高の愛なんだって何でわからないのかな。
 大好きなものは手元に置いておきたいじゃないか。いつだって目に付く所にあった方が良いじゃないか。いつだったか、彼がウワキしたの!甲高い声で騒いでいたキチガイ女が、実はだたのキチガイではなくて、人、つまりは一般的に広く知られている狭い狭い愛の見解を蹴り飛ばして、だってアタシは彼を愛しているの!誰よりアタシが彼を愛してる彼がアタシを愛していないなんてそんなはずがないありえないありえないありえない!とあんまりにも素敵な事を真昼間から叫ぶので、それに感動したおれはその願い・望み・欲望の全てを叶えて差し上げましょう、その後二人がどう歩み寄ってどんなに綺麗な愛を育んでいくのかは二人の思うまま、おれは健気で正直な美しい彼女の為に、そして行く行くはそんな彼女の愛され愛す彼の為、ほんの些細な手助けをしたまで、です。

 なのに世間とは何て浅はかなのでしょうか。この美しさがわからないような奴等など、世間という何とも都合の良い箱に押し込めて、おれは皮肉を込めてそう呼ぶのです。

 世間とは、なんて。

 世界は広がっているというのに。今もずっと、世界は広がり続けている。そんな中でいつ見失うかわからない愛おしい存在を、どうして放っておけるのだろうか。
 いつだったか、馬鹿な男が言った。信じているのなら、どうして自由にさせてやらないのか?おれはその男が心底馬鹿と思いました。
 おれは愛について考えていたいのです。信じる?自由?違う、おれが考えて最も最優先したいのは愛なのです。美しい愛こそが、後々の全てなのです。そうでしょう違いますか?

 なんてな。

「ご機嫌如何」
「………」
「無視? あはは、嘘だよ知ってるよ」

 普段は軋みもしないベッドが、ギシリと音を立てた。あるべき場所に腕がなく、脚がなく、胴体がなく。つまりは頭部だけの愛。つまりはおれの全てがここにある。おれはあのキチガイじみて美しい女の様に、最も大事にするべきものを目の前に愛しさの限りを込めて微笑んだ。

「無視なんてできねェさ。これからはずっと。これからずっと、ユースタス屋はおれと愛を作ってくんだ」
「…下種が」
「何だって邪魔なんかさせねェんだよ。例えばホラ、その脚が逃げるから要らないだろ? 腕はおれを殺そうとするだろ? 胴体があっちゃ、おれ我慢できそうにねェし?」

 ぎりぎりと首を締め付けて離さないような赤い瞳にしっかり自分を映して、そこに自分の形をこの目に事実と焼き付けて、噎せ返りそうな熱情にただくらくらした。
 処理しきれない愛しさに愛しさを塗り重ねて張り合わせて、果てはどんな姿になるだろう。

「やっぱり心底通じ合ってこそだろ? だから今はまだ邪魔なんだよ。深く確かに愛するには、今はまだこの頭だけで良いんだ。だけど返さないなんて言ってないだろ? いつかはおれだって完品のユースタス屋といきたいんだ」

 ゆらゆら揺らめく怒りとか憎しみとかあらゆる憎悪を滲ませた瞳に、今はまだおれに向けられる愛など感じられなくたって、そうだ、おれが愛しているのだからあなたがおれを愛さないなんて、そんな訳がないでしょう。

「なに、おれは別に焦っちゃいない。急ぎの用なんて何にもねェだろ? なァ、ユースタス屋。おれはユースタス屋の為に。ただそれだけ。逆もまた然り、な」

 鼻先が触れるか触れないかの距離で、触れる吐息にぞくぞくする。鋭い眼光は緩む事がないが、反らす気など毛頭ない。含む意味が何であれ、これがおれの全てなのだ。
 ゆるりと開いた赤い唇が、憎々しげに犬歯を覗かせた。唾液に濡れた赤い舌も、全部全て記憶しようと神経が喚く。眼球が踊る。

「…身体が無くたって、てめェを殺れねェ訳じゃねェぞ」
「…そんな事させるように見えるのか、おれが」
「………、」

 ぴくりとした瞼に、おれの言葉に反応するこの生き物に、きっと握り締めているだろう拳をも想像して目眩がする。

「悪くねェよ、ユースタス屋に食い殺されるのも。だけどおれはさ、好きなものは最初に食べる」

 ああ、この愛しい存在をこれからずっとこうやってすぐ側で愛でて、何もかも知る事ができるのだ。二人で愛を作っていく事ができるのだ。

「もっと分かりやすく言うと、最後まで好きなものしか食べない。飽きてつつき回すのも好きなもの」

 利口なあなたはこれで理解しただろうか。

「まだまだだろ? これからだユースタス屋」


 いつかおれも愛される日が来るなんて。














・おやすみなさい、おれの世界



次におはよう、を言う時も
次におやすみ、を言う時も
また次におはよう、と言う時も
夢の中で出逢う時も
その全てがあなたで始まって
その全てがあなたで終わるなら
私があなたでいっぱいである様に
あなたも私でいっぱいなら良いな




キッド船長の首ネタその2
三大欲求がテーマでしたが結果、
ローたんがベッドで一人で寝れなくて
いつも椅子とかで寝てたらどうしよう禿げる
で落ち着きました
120202


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