重力のままの




 どうしようか、コレを一体、おれが、おれは、コレを一体どうすれば良い?
 わざとじゃないかというくらいに震えるこの手は一体誰の手なんだ?とても見知った刺青がチラチラ視界に入って集中できない。違うんだ、もっとおれは、今のおれにはもっと気にかけなきゃならない事があって、そんなんじゃない、こんなんじゃない、こんな事考えてる場合じゃない、いっそそんな事はどうだって良いんだ、そうだそんなんじゃなくて…!!

「…船長?」

 びくりと震える肩に手の震えが共鳴して全身が空洞になる。目玉が痛い首が動かないおれの顔面はどこへ行った?メキメキ厭な音を立てて脳幹が捩れる思いがする。三番目の脊髄が麻痺したように、おれは何番目の獲物だったんだろう。
 そうだ、おれは随分寝ていないんじゃなかったか?現実逃避を繰り返す脳に甘えて、あと一分一秒、お願いここから出さないでくれ。

「……船長、…もう」

 お願いその先は言わないで。そんなモノは聞きたくないそんなモノ知りたくないだって、だって、だって

「もう隠しきれません。船長…おれたちは終わりです」

 何だって海賊になんてなったんだろう?そんな事は覚えてない。考えくらいはしただろうが考えた事事態覚えていない。多分忘れた方が良かったんだろう。
 信頼する仲間もいる、力だってある、恐いものなんかない。欲しいモノは奪え、それが海賊じゃなかったっけかな。
 
 だけど、だけど、いくら無法者になったっていくら悪名を掲げたっていくら周囲を壊したって、それはいつだって付いて回るのだ。いくら天に中指を立てたって、結局それは自分にしか見えない自分の思考の奥底と同じように、途切れない意識の中に点々と息を潜めて隠れている。許されなくたって構わないのに、解ってくれなくたって構わないのに、結局天が天であるようにただ、それはいつだって一緒だった。地面に這うおれの何を何に何の行いなど天にとってはなんでもないのだ。それをどうしたって覆せるわけがないのに、どうしてできると思ってしまったんだろう?

 悪魔がどうとか能力者とか、救いようのない無法者であるなんであれ、おれはヒトに違いがない。

 ヒトとしてのあれやそれ。鬼の首すら取った気でいたおれは、赤子の首を捻るが如く覆したと思った事情の山に取り残される。
 容易い気でいたソレたちは、ただ単におれに牙を向く最高の瞬間を待っていただけで、絶好の機会を狙っていただけで、何の事もない、老いる事もない、いつまでだってそこにいる。ただただそこでじっとしている。


 船は包囲された。おれの城の扉はあと何秒で開けられてしまうだろう。数千秒か、数百秒か数十秒か、数秒か、はたまた一瞬か。
 目の前の赤色がするり・と転がる。ああ、その耳で鼻で眼で唇で、その今全てでお前は把握したんだなァ。
 おれはきっと終わってしまうのだ。これで終わりなのだ。切り離してしまったけれど、お前はそれだけでもおれを殺せるのか?殺してもらえるだろうか?

「なァ、いっそ、おれを」



 ほうら、てめェの大好きな大好きな、ソレを奪い返しにきた。


















・所詮それらは重力のままの、引かれ愛



全て終わったと思ったけれど
そんな虚ろで
ひとつを賭けたむざむざが
酷く悲しく美しかった




話が滅茶苦茶でおれ得過ぎる
キッド船長の首ネタその1
120128


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