よくできました
こんなときどうすればいいかわからない。例えば好きだと言われたとき。例えば嫌いだと言われたとき。
もう少し感情出せないの・なるほどそう見えるわけ。それを言われたおれはなんと言って返したら、正解と言われるんでしょうか。
「好き。ユースタス屋」
どうやっても上手くはないけれど、まァマシと言われた顔で言う。世間に言わせるとこれはセーフ。
「あァ、知ってるよ」
「嘘。知ってないよ」
「何がだよ」
「何もだよ」
知ってない、知ってないよユースタス屋。なんにも知らないんだからユースタス屋。表面だって知らないんだから。ゼロより近くにいた事もあるのに可笑しいね。
「変な奴」
「ふふ、正解」
世間のマニュアルによれば、人は人が好きなんだとか。だけどオスとオスじゃないんだってね可笑しいね。あれ?おれってオスじゃなかったかな。ユースタス屋も。あれ?
「だけどお前なら、な?」
こうやって妖しく笑う時には要注意。こうやって異様に白い指が伸びて、おれの顎を掴んだら、
「なあに? …シたいの?」
「んー? …やァ、別に?」
黒の爪が唇に乗って、機嫌よく閉じる瞼。三日月の口紅。いつだって焦らしてる。ギリギリの距離。鼻先は触れてるのに唇には触れないなんて、そんなのは無理だ。
「……っふ、ぁ」
「…イイ子」
仕掛けるのはユースタス屋、待てが出来ないのはおれ。もう一方の手が頭を撫でる、異様に白い指、透けた血管、その先にあるのは、もしかしてお揃いかな。
「んん…止めろよ、見てる」
「何が」
「ふふ、あれ」
ゆらりと挙げた刺青の指で月を指す。くるくる円を描いて、恥ずかしいからねェ止めて・赤い眼にお願い。でも多分無駄。いや、確実に無駄。
ねっとりした舌に頸動脈を圧されて嗚呼、今日は外でなんて。なんて最低なの。
「いつから、んな、ロマンチストに、なったんだ、よッ」
「あ、ちょ…待ってわかったから!」
「わかって、ねェよ、ッ!」
「や、嫌だって…なァ、ちょ…ね、ユースタス屋、ぁ」
いいようにされるのは好きじゃない。嫌い。大嫌い。死ぬほど嫌い。
「何が、恥ずかしいだ? …笑えねェ冗談抜かしてんじゃねェよ!」
だけどコレは嫌いじゃない。望んだわけじゃないけれど。
「冗談はココだけにしろよな…なァ、なんだよお前のこれ」
白い指に違う白がまとわりついて目立つ。何がっておれが。ぺとっと胸元に付けられた体液は、なんだか不様なほどにおれには似合った。
どうしようもないおれのソコから掬い上げて、ぺたり、もう一回。ユースタス屋が面白がってするこの行為は、される度にとんでもなく惨めになるのだとユースタス屋は知らない。
隔絶された世界からお情けでやってきたこの男に、良いようにされても幸せですと、言っているような気分になるだなんて、ユースタス屋は知らない。
へらへら笑っていても残忍。人を殺している時とそう変わらない。生まれる前から捕食者の位置付けを貰っていたんだろう。
「酷い奴」
ユースタス屋の綺麗な肩に乗ったおれの腕は、まるで大違いの色。拒絶されてるみたいだと、いつも思うんだ。
おれの位置まで降りてきたユースタス屋が、気紛れにおれで遊んでるようだと、いつも思うんだ。だから
「あァ…でも間違っちゃいない」
好きだの嫌いだの、ヒトだのなんだの、愛やソレは何が違うと言うんだろう?
「良くないよな、ぜんぶ」
そう、それはわかってるんだけど。
・ただあなたのよくできました、が欲しいだけ
理解ができないそれを
できたふりして答えたら
思いの外あなたが優しかったから
やっと更新してこれか
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