違っていたら




「なァユースタス屋、ユースタス屋は何が好きなんだっけ」

 ぽつり、と疑問を落とされた。
 何の脈絡も無いようで、刺さるような疑問。
 結局はのめり込んでしまった。目も当てられないほど盲目的に。

「…知ってどうする」

 今だに乗り上げたまま動かないおれを見て、手も足も投げ出したトラファルガーは小さく唇を引いて、言った。

「何でこんな事すんの」

 服は乱雑に床の上。気に入ってるんだろう帽子も床の上。
 今のトラファルガーに衣服は一切ない。全部毟り取ったのはおれだ。屈辱的であるに違いない行為をしたのはおれだ。

「気に入らない?暇潰し?ただの興味本位?それともソッチ系?」

 潜水艦の主の自室へ押し入って、無駄に広いベッドに縫い付けて、逃げないのを良い事に好き放題。
 この感情は何なのだろう。何かが抜け落ちたような、冷ややかな虚しさ。

「答えろ。ユースタス屋」
「…っ、」
「何でこんな事、すんの」

 不意にゆらゆら揺れた瞳。少し色素の薄い瞳に浮かんだ、水分と苦しげな色。

「お前、は」

 薄い唇を噛んで、顔を歪めて、弱々しく首を振る。

「はは。答えらんねェか。いいんだ、おれは。別にお前じゃなくたって……ユースタス屋は、何で、なん…で、」
「トラファ、」
「──ユースタス屋ァ。おれは、明日行くからな」
「……」
「さようならだ。ユースタス屋。まァ、悪くなかった」




 言い終わると同時にトラファルガーが起き上がる。
 細い腕が背中に回る。肩に頭が乗る。それが当然であるかのように、ぺったりと肌に馴染んだ体温。


 確信していた。それが今日、この時である事。
 どれ程にこいつがおれの中を占領しようとも、どれ程にこいつにおれが溺れていようとも、そんなものはお構いもなしに、ただ離れる時だと確信した。
 何一つ言葉にならない。何一つ変えられない。初めからわかっていたつもりだった。覚悟は出来ていなかった。

 今、声も出していない喉が裂けそうなのは、言えないからなのか。伝わらないからなのか。そうか、これで終わりだからか。


 なァ、お前があまりにも大人しく腕に収まるから、おれはきっと浮かれてたんだ。
 このままで居られたらと思ったんだ。どこにだってお前を連れて行けると、思ってしまったんだ。

 何なのだろう、これは何なのだろう。
 何と呼んだらいいのだろう。
 狂いそうになる、泣きそうになる、訳のわからない痛みが巡る。
 おれには、これの名前すらわからない。



 これを何と呼ぶんだろうか















・もし世界が違っていたら、それは恋だと笑っておくれ



全てを擲ってでも、
そう考えてみたら
おれは嬉しさと
恐怖でいっぱいだった




キドロだと言いたい
101112修正


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