一人言
「ユースタス屋、おれ死にたいんだ」
夜の一人は寂しい。温かくならない布団、読みかけの本、クルーの足音。
ソナーはおれの心臓の音。行ったきりで、跳ね返るまで待ち惚け。
「ユースタス屋、死にたいんだ」
跳ね返した赤が恋しいんだ、当たり前だろう?側にいてくれないから爪先が冷たい。
どんどん酷くなる隈にはもう慣れた。どんなにおれが弱ったって、それでユースタス屋に会えるわけじゃないんだ。
「……」
夜には眠るという事をあっという間に覚えたおれは、あっという間にそれを忘れて、ただその行動だけは覚えていて、思い出したくて必死に毎日繰り返す。
こうやって横になって、それでおれはどうしていたんだろう?広いベッドの中、いくら手をさ迷わせてもなんにもない。
耳の中で鳴る鼓動の為に奪われていく手足の体温が、きっと失われない方法があったのに、いくら待ってもおれの身体はガタガタ震えるばかりでいつか見れた夢も見れない。
何だって言うんだ、これが一体何だって言うんだ。そう思って思って、早くユースタス屋に会いたくて、ユースタス屋がいるんだと思ったら広過ぎた海も恨めなくて、辛いけれど辛くなんかない、きっともうすぐ、もうすぐ会える、会ったら思い出せる。だからまだおれは眼を開けたままでいる。
「ユ、スタス、や…」
ユースタス屋がしてくれた事は覚えてるんだ。だけど温度が帰ってこない。これだけ待っても帰ってこない。だけど帰ってきたら、ちっとも待ってないって言うんだ。
そうしたらまた側にいてくれるだろう?あの時のおれしか知らないユースタス屋は、あの時のおれに会いに来るんだ。今のおれは知らないんだ。今のおれは、きっと疲れている。
ペンギンもベポもキャスケットも皆皆嘘吐きだ。世界だって嘘吐きだ。だからユースタス屋だって、嘘吐きだ。
だからこれは嘘なんだ。
「―――――」
新聞の一面を飾った赤色の死が、おれに理解出来なかったからじゃない。それを知ったおれは自分の死を間近で見てしまった。おれはもうユースタス屋に殺される事がない。
おれはどうやって死ねばいい。どうやって死んだらいい。ユースタス屋以外なんて嫌なんだ、ユースタス屋がいいんだ、二度と眼を開けないのなら、ユースタス屋だけ見て死にたいんだ。最期の最後までおれはそうやって幸せでいたいんだ。
「嫌だ、嫌なんだよユースタス屋…おれはユースタス屋以外みたくない」
夜はまだ明けないのに、扉を叩く音がする。
どくりと脈打つ心臓は、まだまだ不気味に、おれを生かす為に赤い色を送るだろう。
妙に冴えた脳から、圧迫された鼓膜、風の鳴る喉笛、入れ物のような内臓のそれら。渇いた舌先が舐めるのは、あの赤だと信じたい。
本当だと理解している。だけどおれはまだ思い出せない、だからそれは嘘なんだ。きっとそう、嘘なんだ。
「殺してくれよ、ユースタス屋」
・それはまるで、内出血のような一人言
一度だけでもない
一目だけでもない
だけど永劫を咀嚼できるほど
利口でもない
死ネタでごめんなさい
110124