間奏
あれからどれくらい経つだろう。シャボンディ諸島を出てから事ある毎にちらつく赤い影は、どうやらただの偶然では無いらしい。
「…キャプテン。重い」
次の島は冬島なのか、このところやけに気温が低くて敵わない。
抗議するベポを無視してその背中にべったり張り付いていたローだが、ふと何かが過る。
「…コート」
「え、何?」
そうだ、このモフモフとした感じはあいつのコートに似てる。髪の色と同じ、真っ赤なコート。
触っていないからどんな感触かなんて知らないが、きっとこんな感じなのだろう。
毛足が長かったから、もう少しふわふわしているかも知れない。
「…触りたかったな、あれ」
直接顔を合わせたのは、海軍とやり合ったあの日一日だけ。
そこそこの日数滞在していたのだから偶然出会しても可笑しくないはずなのに、あの赤には会えなかった。
何となく向こうが行きそうな酒場で飲んでみたり、騒動があれば覗いてみたり、常にその姿を探しつつ行動してはいたのだが、結果も虚しくシャボンディ諸島を出航する事になる。
もしかしたらあれから船を離れなかったのかも知れない。あまり街を彷徨いたりしない質なのかも知れない。
今更考えても仕方が無い事ではあるが結局あの人間の事など、新聞の情報と人の噂と、あの日直接会った数時間でしか知らないのだ。
あの島でもろくに会えなかった人間に、この先海で会える保証など無い。
「やっぱり、もっと探せば良かった…」
「キャプテンどうしたの?」
「どこに停泊してるかは知ってたんだ。そこに直接行けば良かった」
「…キャプテン?」
「こんな広い海でこんなに会いたいと思うなら、あの狭い島で無理矢理にでも会ってれば良かった」
後悔しても、もう遅い。惹かれる理由はわからないが、惹かれている事は事実で。
考えて出てくるのは凶悪な面と、言葉遣いと、赤い色と――あの目。
「何かあったの?キャプテン?」
「大事だよベポ。恋煩いだ」
「こい…!? だ、誰!?」
おれはな、ユースタス屋。寒いのが苦手なんだ。厚着もしたくないし、だから寒い所は行きたくない。
「凶悪な面した、赤い美人」
「え、それ美人なの?ていうかちょっと趣味悪いよキャプテン…」
――なのに。
シャボンディ諸島を出てからおれはこうして見張り番と一緒に航路を確認し、敵船を確認し、天候を確認し…。
健気だろう?お前の旗印を探してるんだ。
「ああ、おれもそう思う」
会えたら何を言おうとかはよくわからないが、これだけは言える。
次に会ったらあのコートにも触ってやるし、あの唇の赤も貰ってやる。
ついでにお揃いの隈が出来るまで、相手でもしてもらおうか。
・強制インテルメッツォ
ここは一時休戦といきましょう
片思いロー
110106