些細




 喧嘩した。本当につまらない理由だったと思う。
 確か一緒に初日の出を見ようとか言って、そう言ったのはおれで、だけどユースタス屋の奴が起きなくて、起こしたけど起きなくて、仕方無いからそのままおれも隣で寝て、目が覚めたら9時で、先に目が覚めたのはユースタス屋で…。

 とにかく日の出は見られなかった。それでユースタス屋が何で起こさなかったんだって言うから、起こしたけど起きなかったって言って、そしたら見られなかったじゃねェかって、だって起きなかったって言って、何テメェも一緒になって寝てんだよ、って言われて。

「まぁ、わかるよ。船長が怒るのも無理ないよ」
「そう…だよな」

 何かふざけんなとか言ったと思う、それから家飛び出して、走りながらキャスケットに電話して。

「大体、そんな言い方傷付くよ。船長悪くないよ、ね?」

 何故だか涙が止まらなくなって、泣きながら事情を話して、キャスケットが来て、今。
 元旦からカフェの世話になるとは思わなかった。道端で泣くおれを、お茶でも飲んで落ち着こう、って引っ張って。

 目の前のティーカップの湯気にも涙腺が弛む。何だか今のおれには全てが泣く要因になりそうだ。

「何か…悪いな、正月早々に」

 謝りたいのに鼻声で恥ずかしさが先に出る。
 何だってこんな事にならなきゃいけないんだ。他人巻き込んで、正月早々。やばい、また泣けてきた。

「いや、良いんだよそんな事…それより泣かないで船長」
「ん、悪い、勝手に…」

 ずずっと鼻を啜りながら、何気なく店内を見渡せば、流石に元旦から人は入らないのだろう、他には離れた席に二人居るだけで、ほとんど貸切状態だった。
 こんな所でぐずぐず泣くなんてみっともないに変わりはないが、今更安心した。
 と同時にそんなおれと一緒にいるキャスケットが、もし変な目で見られるにしても最小限で済むと安心した。

「――ユースタス屋な、怒ってたんだよな、」

 目の前のティーカップに視線を戻して、悪いと思いつつキャスケットに詳しい事情を話す事にした。

「おれな、別に見らんなくても良かったんだ。初日の出とか。ただ――ただ一緒に見ようとか言いたくて…見ても見なくても、どっちでも良いけど寝る前にそれ言って」

 黙って頷いて話を聞いてくれるキャスケットに感謝しながら、思ってた事を言葉にする。

「そしたらユースタス屋も見ようって…多分、楽しみにしてくれたんだよな。だけどおれ、起こしたけどあんま…眠いなら良いかって思って、最初は結構…揺すったりしたけど」

 ポタリとテーブルに水滴が落ちる。

「見らんなくても良いや、このまま朝寝坊しようって思って。ユースタス屋も…それで良いかと思って…だけど違くて」

 また一つ、落ちる。

「何か言うと…どうでもいい感じするけど…なんか…、ショック、で。よくわかんないけどついムキになって喧嘩になった」

 落ちた水滴が繋がって小さな水溜まりになる。

「本当なら今頃何してたかなとか、考えたら…ごめん…、こんな理由で」

 言えば言うほどつまらない話だ。おれが折れれば良かったんだ。そうしたら今頃…今頃。

「…多分向こうも今頃悪かったって反省してるよ。大丈夫だよ船長、帰ろう?仲直りできるよ」
「悪い、ありがとう」


 店を出る頃には昼近くで、疎らだった通りもちらほら人が出てきていた。
 確実に赤いであろう目で会計を済ませて、キャスケットに見送られて今朝飛び出してきた玄関の前。

 また少し弛む涙腺に喝を入れて、ひんやりしたドアノブを握る。
 ――どうか鍵が掛かっていませんように。ビクつきながら捻ると乾いた金属音。

 鼻を啜っていざ。初日の出は見られなかったけど、今年初めての仲直りは出来るように、ユースタス屋の笑った顔が見られるように、滑稽なくらいに気合いを入れて腕を引く。
 おれをこんなにも取り乱させた原因は、どんな顔して、おれに何を言うだろう。














・些細すら狂騒



飾らない、遠慮しない
だけど全部じゃない
まだ少し傷付きもする




本年一発目から偽者
ローが泣いちゃってキャラ崩壊
テーマは
普通の恋人みたいな会話して
喧嘩になるキドロ
玉砕
110101


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