見たいものが見えないお年頃
気を落ち着かせるために息を吐いて扉の鍵を開け外に出ようとした。けれど、押しても扉は開かない。まるで誰かに押さえられているかのようだった。体重をかけて思いっきり扉を押してみると外からドサリと何かが倒れる音がして、ゆっくり扉は開いた。
扉の前には俯せに倒れた男、息はない。頭には、血もなくいくつもの針が刺さっていた。
「え、えぇ」
廊下を渡って先ほど自分がいたホールには男と同じ死体がごろごろと、皆々さっきまで過ごしていた姿と変わらず死体となって立ち尽くしていた。
「帰ってなかったんだ」
中央、死体の群れと一緒に立ちはだかるイルミさんの姿は周囲の死体となんら違いは感じられない。ただ、彼に針は刺さってはないが。
「これ、イルミさんが…?」
答えの分かりきった質問を投げかける。イルミさんは影のように私の前へ近寄り猫の眼で見下ろし言った。
「さあね。ななこはどちらがいい?」
細い両手に挟まれた針が眼前で揺らめき、暗い光を放てば肌が粟立つ。何を言えば、何を言ったら私は殺されるのだろう。私はただ休日を謳歌しようとしていただけなのに、こんなことに巻き込まれるなんて馬鹿げてる。針の先がこちらを向いた。私は目を見開き息をのむ。
「う、わぁ」
針の先は、地面を落ちた。私に向かってきたのはイルミさんの顔で、一瞬のうちに吸いつかれた唇が重くのせられる。離れた彼の唇は私の口紅が移ったのか、赤い 。放心したままの私の額を指で小突いてイルミさんは言った。
「ほら、似合わないだろ」
そんなことは、ない。
まえ