麻酔の必要なお年頃
「ななこだ」
持っていたワイングラスを落としそうになった。とある場所で行われている、とあるパーティーのとある会場の一角でチーズとワインを頬張っていた私に声をかけたのはイルミさんだった。
「よく、私だって分かりましたね…」
「何で?どこからどう見てもななこじゃん」
ここにイルミさんがいるというのにも驚きだが、私服姿の私に気付いたのはイルミさんが初めてだ。
「仕事って感じじゃなさそうだけど」
「お客から招待券もらったんですよ。行かないからって」
「なら良かった。今夜ここにいる関係者、みんな殺す予定なんだ」
突拍子もない告白に私の手元から滑り落ちるクラッカーをイルミさんはすぐにキャッチして自分で食べてしまった。
「逃げるなら今の内だよ。あと三十分ぐらいで始める予定だから」
「わ、私は殺されないんですか」
「うん。だって関係ないんでしょ?」
全く以て運のない自分に笑うこともできない。かりかりとクラッカーをかじるイルミさんの姿は、まるで餌付けされているペットのようだった。
まえ