ママを歌うお年頃




仕事場から帰る時は人を避けるために裏口から出るようにしているはずだが扉を開けたすぐ側に待ち人がいるというのはおかしい。

「イルミさんなら仕方ないか」

「唐突に終わらせないでくれるかな」

「間違えました。泥棒さんでしたね」

「泥棒?」

立っていたイルミさんは私に向かって歩いてくると肩に落ちた雪をはらい、そのまま唇を合わせようとしてきた。あからさまに避けたが乱暴に顔を掴まれてしまう流れは、もうお決まりになりつつある。重なった唇に噛まれたような痛みが走って、驚きの声を上げて開いた口内に何かがゴロリと入ってきた。

離れた隙にすぐ手のひらへ吐き出し、出てきたものは一つの指輪だった。

「ちょっと借りただけだよ」

指輪に装飾されているのは紫の宝石。紛れもない、盗られたアメジストだ。

「どう?キザっぽくなかったかな」

いちいちイルミさんにこんな小細工を吹きこんでいるのは一体どこのどいつなのか。


まえ