Sweet Thrill

「………どのツラ下げてココに居んねん、お前………」

 いつか、彼が連れてきてくれた喫茶店。
 今日は先回りして先に来ていた。

「こんな顔」

 言ってニコりと笑うと、殺気が彼の背後に湧き上がる。

「ホンマに殺されたいらしいなぁ?」

 嫌味な笑顔を向けて言うと、マスターにはコーヒーを頼み、彼は俺の正面に座った。
 冷たい視線が真っ直ぐ俺に向く。

「殺されるつもりで来たんじゃないんだけど」

 視線にはいっこも怯まず笑顔を向けて。

「言わなかったんだね。工藤にも、関係者にも」

 偉い、偉い、と片手を伸ばして頭を撫でる。
 即、その手は振り払われたけど。

「言えるかアホンダラ。ホンっマにロクな奴やないな、お前」

 残した保険はきっちり有効だったようだ。



「来週、また海外からの美術品が展示されんの知ってる?」

「………それが?」

 硬く腕を組み、警戒したままの彼が低く答える。

「その日、工藤また別件で多分動けないんだよね」

「………だから?」

 みるみる目が据わって。
 背後の殺気もその濃度を増してゆく。

「遊ばない?」

 ぶち、っと音がして。
 次の瞬間には、彼の近くにあったクッションが、俺の顔面を真っ直ぐ目掛けて飛んできて。
 ぼすっと凄い音でぶち当たった。

「誰が行くかボケ!タコ!カス!!一人で遊んどけ、ドアホ!!」

 コーヒーを運んできたマスターが、思わずカップを落としそうになる程の怒号が響き。
 彼は頼んだコーヒーを飲む事も無く、立ち上がると、すぐさま荒々しく店を出て行った。

「あーあ。今日は奢るって言ってねーのになー」

 マスターからオーダー表を受け取って。
 彼の怒鳴った顔を思い出して、思わず笑った。




 彼については、かつて工藤について調べたついでで知っていた。
 そして、工藤の口からもよく聞いていた。
 工藤曰く、『正直で素直で優しい』ヒト。

 けど、工藤に見せているのは、本人たちは隠してるつもりらしいが、恋人としての顔。
 工藤の視点では見れない、別角度の彼を見てみたかった。
 そして、実際に見た。

「工藤の感想も、あながち間違いじゃねーよな」

 確かに彼は、『正直で素直で優しい』と思う。
 あんな事があっても、最終的には怒って出ていったが、すぐに避けずに話してくれた。

「けど、それだけじゃない」

 心は、いつもスリルを求めてる。
 ゾクゾクする程の…。
 思考が矛盾して、崩壊する危険も知らないで。

「また、来週。楽しみにしてるぜ?平次君」

 口元に、笑みがこぼれた。



 君の求めるスリルを、俺が与えてあげる。
 絶望に近い甘さで。

 君が崩壊する、その時までね。

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