Sweet Thrill

「ホンマ、噂通りの性格の悪さやな、怪盗キッドはん。いや……黒羽快斗くんやったな」

 月明かりに宝石を翳し、違った、と溜息を吐いた頃。
 背後から掛かった声にそちらを振り向く。

「これはこれは…ようこそ、西の名探偵。よくココがお分かりになりましたね。性格が悪いとは、どう言う意味でしょう?」

 扉に凭れて、腕組しながらコチラを見ている。
 その眼光は鋭く、人懐こさなど欠片も無い。

「とぼけたって無駄や。わざわざ人ん事品定めまでしに来て。何がしたいねん、お前」

 その場を動こうとはしない。
 だが、警戒もその視線も緩める気配は全く無い。
 逃げようとすれば、恐らく一瞬のうちにそれを気取って向ってくるに違いない。

「何がしたい、ねぇ…」

 最初は本当に、純粋にライバルになれる人物か、それを確かめたかっただけだった。
 だが、この強気の瞳。

 捻じ伏せて、屈させたくなる。

「そうだな…」

 言いながら歩み寄り、手にしていたに宝石を彼の方に向って投げた。

「おまっ…なにして!」

 慌てて拾おうと伸ばした、その腕を捉え、強く自分の方へと引き寄せる。
 抱き締める格好で、極近くからその瞳を覗いた。

「大丈夫、あれはイミテーション」

 相手の瞳は、みるみるうちに怒りの色に染まってゆく。

「離さんかい」

 しっかりとホールドされた身体は、もがいてみたところで俺の腕の中からは逃れられない。
 口元に、思わず嫌な笑みが浮かぶ。

「工藤に見せてる顔。俺にも見せてくんない?」

 彼は思い切り顔を背けるが、体勢が邪魔をして思うほど逸らせなかったようだ。
 柔らかそうな唇に、自分のそれで触れる。

「……っ!!」

 彼は逃れようと、逆に顔を背け、横目に思い切り睨み付けてくる。

「…離せ、言うてんねん……ええ加減に……せぇよ…っ」

「工藤にも、いつもこんな態度してる訳?可愛げないって、捨てられても知んねーぞ」

 工藤の時はきっとこんな顔はしないだろう。

 だから、いい。

 逃げた唇も、またすぐに捕まえて。
 一瞬怯んだ隙に、壁際に追いやった彼は、先程よりも更に逃げ場を失った。

「お前が、あまりにも期待通りだったからいけないんだぜ?」

「……なんやと?」

「最初は、ただコッチで仕事する時も、ライバルが居た方が楽しいだろうって。ただそう思ってたんだけどさ」

 唇を首筋に当て。
 その場をきつく吸って、ちくりと僅かな痛みを彼に走らせる。
 彼は、僅かに眉根を寄せて顔を歪めた。

「お前、やっぱただの一瞬で俺の事見抜いちまうし、本当、いいライバルになれるって思った」

「…それが…なんでこんなんなってんねん…」

 身体を何度押してみても全く離せない事に、表情だけは強気のままで、抵抗するのを諦めてしまった彼の身体。
 その身体の首筋に顔を埋めていたが、少しだけ顔を上げ、彼と瞳を合わせて口元で笑む。

「けどそれ以上に、お前のその目を見てたら……征服欲が沸いちゃったんだよね」

「…アホ通り越してバカやろ、お前。悪趣味過ぎるわ」

 最上級の褒め言葉。
 言って笑うと、いつの間にかはだけさせた胸元へ、噛み付くように吸い付いた。
 それと同時に身体の上を這わせる右手。

「ちょ、待て!正気かお前っ。本気で…っ」

 慌てだす彼に、ふっと笑みをこぼして。

「俺はいつだって本気だけど?取り敢えず、バラさない為の保険ね」

 言うと。

「冗談やないっ!それ以上なんかしたら殺すぞ、ホンマに!!」

 本当に怒っているらしく、完全に怒りに満ちた瞳。
 一度は諦めた抵抗を、また開始する身体。

 愉しませるだけとは思ってない。
 それがまたいい。

「殺せるなら殺してみろよ。取り敢えず、煩いから黙って」

 塞いだ唇。
 先程よりもずっと深く。
 息苦しさに、苦しむほどに。

 その怒りに満ちた瞳が、諦めの色に変わる瞬間。
 今夜の仕事は、そこが本当の意味での完成。

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