Heartful Voice

「……黒羽、と言う方に貴方がお怒りである事は分かりましたが……――。不満は、直接ご本人にお伝え下さい」

 笑みを浮かべるその顔は。
 これだけ近くならよく分かる。

 間違いなく黒羽だ。

 キッドは変装の名人。
 顔を黒羽と同じにしているのだとしても、瞳までは変えられない。
 黒羽のあの瞳を、自分が分からない訳がない。

「認めへんか。まぁ、そうやろな」

 腕組みしながら目を細めると。
 キッドの手が自分の顎へと触れた。

「私がその方だと思い、わざわざ会いに来て下さったようですが。直接会っていたなら、さぞかしその方もお喜びになったでしょうね。今日はクリスマスイヴだ」

 すっと指で撫でるようにしてその手が離れて。

「残念賞。コレを差し上げますので、警察の方にお渡し下さい」

 捕られた手に、そっと宝石が乗せられる。
 そして向けられた、その背に。

「そうや。今日はクリスマスイヴや」

 話すが。
 歩みは止まらず、背中が徐々に遠くなって。

「せやから……」

 ちらちらと。
 小さな雪が、空から一つ、二つと落ち始め。
 落とした瞳に、落ちては消えるそれが、映って滲む。

「今日会いたかったんや……」

 上げた視線。
 ひとつ、大きく息を吸って。

「快斗……っ」

 初めて呼ぶ、その名前。
 視線を上げて、もう一度見た背中。
 キッドの歩みが止まる。

「ずっと分かってへんかった……。けど、分かったんや」

 彼は振り返らない。
 けれど。

「……何を?」

 言う、言葉が。
 声が。
 さっきまでとは少し違う。

 うっすらと地面を覆い始めた雪の上。
 ゆっくりと。
 でも確実に、その背中に近付いて。

「オレは快斗が……今日お前に会えた子供に嫉妬する位……」

 ぎゅ、と背後からしっかりと抱き締めた。

「ホンマに好きや」

 聞こえてくる鼓動は。
 自分のそれと、もう一つ。
 同じ位に大きな、彼のモノ。

「……反則だろ……」

 呟くのが聞こえて。
 そっと解かれた手を離すと。

 キッドが振り返ると同時に、目の前からは白い彼が消えて。

「オレの事、捕まえる?」

 少し困ったように笑う、黒羽が自分を向いていた。
 会いたかった。
 大好きなその笑顔。

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