Sweet Thrill

 取り合えず、警戒を解く事には成功したらしい。
 その後はずっと普通に会話をしてくれた。
 時折笑顔も見る事が出来るくらいには。

 けれど。

 話している間中。
 何故だか違和感が付きまとっていた。
 警戒も何も、その後対面している彼からは感じる事が無かったのに。
 向けられている笑顔。
 それが嘘にも見えなかった。
 …何故だ?

 気付けば、窓の外は闇に包まれていて。

「したら俺はそろそろ…」

 言って、時計をちらり見て彼が立ち上がる。

「…あ。遅くまでゴメン。ありがとう」

 慌てて立ち上がった俺に彼が振り返った。

 その瞳。
 一瞬だったけど…間違いなく、不穏な色が浮かんでいた。

「ほな、約束通り支払い宜しく?黒羽、快斗…くん?」

 ひらり、片手を舞わせて店を出て行く。
 その背中に。
 先程浮かんで否定した、自分の考えが引き戻される。

 …やっぱり。
 こりゃ、愉しくなりそうだ。

「…気付いてやがるな」

 支払いを済ませて店を出た時には、既に彼の姿は見渡せる場所に無く。
 風が通り抜ける、誰も居ない道を眺めて笑みを浮かべた。

「正式にお会いしてみる必要性があるようだ。黒羽快斗としてじゃなく、取り敢えず怪盗キッドとして」

 次に会う時、彼はどんな顔を自分に見せてくれるのか。
 心地良い緊張感と期待を胸に。
 黒羽はその場を後にした。



 大阪府警に、怪盗キッドからの予告状が届いたと、美術館から連絡が入ったのは、それから数週間後の事。
 特別展示の為、海外から届いた宝石がターゲットらしい。
 大滝から聞いて、服部もその事は知っていた。

「…俺は行く気ないで」

『何でだよ』

 何時情報を知ったのか、工藤から電話が掛かってきたのは、大滝からの電話を切った直後。
 自分は他の事件で行けないから、お前が行け、と言いたかったらしい。

「別に。キッドに興味ないだけや」

 言葉に嘘は無い。
 工藤とは違い、自分はあの気障な男にそれ程興味がそそられなかった。

『まぁ、そう言うなって。行ってくれたら、次に会う時はイヤって程愛してやっからよ』

「完全に行く気のうなったわ。ほなな」

 即答で返すと、そのまま『終話』ボタンを押す。
 通話が切れる間際、何か工藤が喚いていた気がしたが、その辺は気にしない。
 そして、即リダイヤル防止に電源までもを切った。

 キッドに興味が無いのは本当だが、行かない、と言ったのは嘘だ。
 工藤に対し嘘を吐いたのは、自分の勘が確かであれば、工藤が傷つく事になるからだ。
 だから、自分は関わっていない、何も知らない事にしておきたかった。
 それが服部の本心。

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