Heartful Voice

 黒羽に告白され、付き合い始めた。
 その流れもその後も、自分にとっては実際おままごとみたいなもので。
 好きだと言う気持ちはあったが、それが本当に恋愛のソレかと言われれば微妙。
 押しに負けたと言うか。
 何となく感が強かった。

 だから。
 好きだと言われる事はあっても、自分から好きだと言った事は無い。
 触れられる事はあっても、自分から触れに行く事も無い。
 キスも、自分がしたいと思ってした事は一度も無かった。

 黒羽が時折、寂しそうな瞳を見せる事は知っていたけれど。
 だからと言って、自分にはどうしようもなかった。

 分からなかったから。

「子供に嫉妬するってどないやねん。自分が優先されて当然とか……ホンマ最悪や」

 自分を好きだと言ってくれるのが当然。
 求めてくれるのが当然。
 全てに於いて優先してくれる事が当然。

 知らない内にそう思っていた。
 そしてそう思う根底にあるのは、微妙と思っていた、れっきとした恋愛としてのソレ。

 それに、今更気付いた。

「めっちゃ好きなんやないか。そら気合い入れてプレゼントも選ぶわな。アホくさ」

 脇にある紙袋をちらり見て、また一つ小さく溜息。
 選んでいた時の楽しい気分は、今は無い。
 やれやれと思いながら上げた視線の先。
 一枚のポスターが視界に入った。

「Tears of Mary……」

 鮮やかなトルコブルーの、マリアの涙と呼ばれるビッグジュエル。
 その展示会の案内が記されている。

「キッドが狙いそうな宝石やな」

 言って。
 興味なさ気に視線を外した。
 次の瞬間。

「いや……ちょお待て」

 もう一度、ポスターに視線を向けた。

「イヴ、限定……?」

 宝石展自体の期間は3週間程ある。
 だが、Tears of Maryの展示は1日のみ。
 それも、クリスマスイヴだ。

「……マジックショーって……何時までや……?」

 怪盗キッドが黒羽だと思った事はない。
 疑う事すらした事が無い。
 けれど。

『あー……今日はアレが出てるしなー……。黒羽は絶対来れねえし、連絡する暇もねーだろう

から。オレとデートしたとか言わなきゃバレねー。大丈夫』

 誰が誰とデートやねん。
 その時はつっこむだけで終わったが。

「アレってなんやったんや」

 アレに出ている、なら何か用事があったのか、で終わる。
 だが。
 アレ『が』出ている、と工藤は言っていた。

「あの日は……珍しく工藤は行かへんかったけど……キッドが出とったな」

 アレ、は。
 予告状……――?

 紙袋を掴むと。
 一気にエスカレーターを駆け降りて。
 百貨店を出ると、近くのネカフェへと急いだ。

 調べたのは、東京の福祉施設。
 そこでイヴに行われるイベント情報。

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