Yesterday,today,forever

「……じゃ、ぜってー忘れねーように……刻み込んでもいいかな」

 重ねてきていた手を両方ともに掴んで。
 言ってる事はあれだけど、至って真剣な瞳と声で問うと。

「なにを」
「平次の全部」
「……やっぱお前、さっきエロい事考えとったのやな」

 返るのは乾いた笑い。
 コレは完璧、呆れてる時のそれ。

「近畿大会でオレが優勝したら考える、っちゅう話やなかったか?」
「だって平次があんな事するし言うから、オレも―我慢できねえっつーかウェルカムって言われてる気がするっつーか」
「なんかした覚えもなければ、全然ウェルカムちゃうし。夢ん中で勝手にしとけや」
「実物が目の前に居て、なんでんな虚しい事しなきゃなんらねえんだよ」

 じりじりと後退する平次を、じりじりとベッドサイドまで追い詰めて。
 逃げられないように、両腕で挟み込むようにして顔を近づけて。

「正直。会えない間、オレで何回位抜いてんの?平次」

 にやり笑みながら瞳を覗くと。
 見開いた瞳が、困惑の色に染まるのを見た。
 それはつまるところ、やってるって事の肯定。

「あ、ああアホな事抜かすな!してるかっ」
「ふーん……」

 言葉で否定してもムダ。
 ちなみに、どっちで想像してんのか気になるところだけど。
 流石にそこまで聞いたら可哀相だからやめとく。

「じゃ、オレでしか抜けない身体にしとかないと。ちなみに、どっちで想像してるか知らねーけど、平次は下だから。そこも譲らねーから」
「な……」
「オレは心配性だからねー。言葉だけじゃ、やっぱ不安になっちゃうんだよね」

 平次のこめかみからは冷や汗が流れて。
 表情も身体も強張ってカチカチ。
 下とか宣言されて、余計に本気で怖いんだな、ってのは分かってるけど。

「心配になって欲しくないんだろ?」

 にこり、笑顔を向けて。
 首筋に唇を寄せると。

「あー!ちょー、ホンマにたんま!!準備できてへんーっ」

 オレの両肩に手をあて、押し返しては来るけど。
 その力は殆ど無いに等しい位弱くて。
 本気で逃げようとしてはしていないようだった。

「え?なに?後ろの処理??大丈夫だって、気にしねーから」
「その準備ちゃうわ!心の準備じゃ、ボケーっ」

 言葉は乱暴だけど、表情は今にも泣きそう。
 だけど、昼間見た泣きそうな顔とは全然違う。
 おかしくて、噴きだすのを堪えなきゃならないような、そんな顔。

「まあ……前戯の間にでも……準備しといてよ」

 堪え切れず、笑いを溢しながら言うと。
 平次の表情が、徐々に見慣れたそれへと変わっていった。

「……もうそれ、準備云々の段階ちゃうやんけ」
「一応、準備段階は準備段階、だろ?」
「そない屁理屈要らんわ」

 やれやれと大袈裟に息を吐いて、呆れの視線を向けてくる。
 さっきまで、怖くて泣きそうな顔になっていたくせに。
 ころころ変わる表情に、時に呆れさせられもするけど。
 いつも凄く、助けられてる。

「平次」
「なんや」

 ちゅっ、と。
 触れるだけのバードキス。

「愛してるよ」

 抱き締めた腕の中で広がるのは。
 パルファンみたいに強く主張はしないけど、コロンのように儚くもない。
 平次だけが持つ香り。

 抱き締める度。
 その香に酔わされ、溶けてゆく。

 1年に会えるのが3日だけだったとして。
 それじゃ耐えられないって思っても、それでもきっと耐えてしまう。

「それはオレもおんなしや」

 オレから全てを奪って、全てを与えてくれる。
 世界にたった一つ。
 オレだけに効く、完璧なる媚薬。

 その効果は、恐らく永遠。

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