Yesterday,today,forever
織姫と彦星は、1年のうちでたった1日だけの逢瀬と思われているけど。
旧暦やら新暦やら合わせると、実は3回は逢えるチャンスがある。
けど、やっぱ365日のうちの3日だけってのは、オレなら耐えられない話なんだけど。
「1日と思ってたら3日も会えるんやで?」
なんて、爽やかに言われてしまうと。
会えない間、オレはいつも会いたくて堪らなかったりするけど、平次はそうじゃないのかな……とか。
寂しかったり、不安だったり。
心中とても複雑だ。
「……どないしてん」
ポーカーフェイスって何でしたっけ?
それ位、平次の前では表情に全部出てしまう。
隠した所で見抜かれちまうから、そんなものは役立たないってのもあるんだけど。
平次の前では、常に本当の自分で居たいから、ってのもある。
「オレなんか変な事ゆうた?」
少し困ったような顔をして、ぽりぽりと頬を掻く。
ホントはこう言う表情、あまりさせたくないんだけど。
平気でもないのに平気とか、強がってどうなるってモンでもないし。
平次はめんどくさがらずに向き合ってくれるから、結構それに甘えちまう。
甘え過ぎてるって、自分でも分かってるんだけど……。
「変な事は言ってねーけど。例えばオレと、1年に3日しか会えなくなっても……平次はそれで平気なのかよ?」
「……いや、七夕の話しとったのやろ?何でソコに話が飛ぶねん」
「だから例えばだよ、例えば!3日も会えるんだからいいじゃんって、そう思うワケ?」
「黒羽……」
増々困った色を強くして。
平次の視線が、テーブルの上のカップへ落ちる。
流れる沈黙、少し重い空気。
まぁ、自分がそうさせてんだけど。
何で言い返さないんだよ、とか。
何で黙ってんだよ、とか。
そこは即行で『思うワケ無い』って言えよ、とか。
勝手な考えばかりが頭に浮かぶ。
「……大体さ。何で今も『黒羽』なワケ。苗字呼びってすげぇ距離あると思わない?それとも、平次にとってオレって所詮その程度?」
皮肉っぽく言った言葉に、平次の表情が一瞬で固まった。
そうなるのは、言う前に分かってたけど。
その次に見せるであろう表情も。
「……まえが……。自分がその程度なんとちゃうんか!」
予想通りの表情。
けれど、予想を超えた激しさに一瞬怯む。
人が居る場所で、二人で居て目立つ事を嫌う平次が。
テーブルに拳を叩き付けて立ち上がり、思い切り怒鳴ったりするもんだから。
少なかったにしても、店内に居た客の視線が一気に集まるのは必定。
それにも構わず見下ろしてくる、燃える色の激しい瞳。
暫しの沈黙の後、その色がふと消えたと思うと。
「……帰る」
言って、鞄を掴んだ横顔は酷く悲しそうで。
「ちょっ……待て、平次!」
見た事ないけど、ホントに泣き出すんじゃないかと思った。
実際、泣いたりするワケなくて。
無言のまま背を向けて、足早に店を出ようとしてるだけなんだけど。
取り敢えず。
ここで追掛けなかったら間違いなく終わる。
それだけは、怖い位に伝わってきて。
先に支払う店で良かった、なんて一瞬思いながら平次の後を追った。
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