Sweet Thrill

 連れ込まれた喫茶店は、どうやら彼の行き着けらしく、扉をくぐると、マスターが親しげに愛想良く彼を迎えた。
 とても落ち着いた大人のイメージの店内。
 工藤と居る時の、腑抜けたような彼のイメージとは全然違う。
 ここが、本当に彼の行き着けだとしたら。
 あの性格の悪そうな態度と言い、この店と言い…もしかして、これは…。

「何にする、訊いてんねん。早よ答えろボケ」

 不機嫌そうな顔と声が突然間近で広がる。
 思わずビクリと肩が震えて、その様に益々彼は不機嫌の色を強めたようだった。

「あ…じゃ、ラテ。ホットで」

 乾いた笑いでそう告げると。

「だ、そうや」

 彼はマスターにそれだけ言って、奥の席に腰を下ろした。
 気まずそうに向かいに座る自分を、変わらぬ色の瞳で見据える。

「…お前、ホンマに工藤のツレやろな。嘘やったらシバくぞ」

 どうやら不審とイライラがMAXらしい。
 気のせいか、彼の背後に殺気のオーラが見える。
 …これはちょっとマズいかも…。



 て言うか。
 やっぱお前工藤の前でネコ被り過ぎじゃねー?
 ちょっとだけ殴ってやりたくなった気持ちを抑え、ポーカーフェイスを取り戻す。

「嘘じゃねーよ?ホントに工藤のダチだって。なんなら、本人に訊いてみてもいいぜ?」
 
 言って自分の携帯を差し出してみる。
 工藤の友達なのは嘘じゃない。
 自分がキッドである事は当然秘密で、最初ファンだと言って近付いて、今や立派にお友達。
 チャチな嘘が通じる相手だとは、最初から思っちゃいないし、バレたら余計に不審がられる。
 そんなスマートじゃないやり方、自分には似合わない。
 差し出した携帯は、一瞥されただけ。
 『結構』、と押し戻されてきた。

「で、その工藤のツレが、わざわざ大阪まで俺に会いに来た。ホンマの目的はなんや。お友達になりたい、なんて嘘やろ」

 声は落ち着いているが、瞳の鋭さは消えていない。

 もしかしたら…。
 いや、それは無いだろう。
 一瞬浮かんだ、自分の考えを否定した。

「ホント、お友達になりたいな、って。そう思っただけだよ」

 運ばれてきたカップを手に取り、口元に運びながら答える。
 言葉は返らないが、『嘘吐け』と聞こえそうな勢いの視線が注がれた。
 疑り深いのは探偵の性か。
 どうしたらこの警戒を解いてくれるのだろう?

「工藤から話は良く聞いてたからさ。工藤と気が合うなら、俺とも合うかな、って」

 カップを置いて、人懐こい笑顔を向けてみると。
 少しだけ、その瞳の色が緩んだ気がした。
 気のせいかもしれないけど。

「…俺と気が合う、なぁ?言うとくけど、多分工藤が思っとる俺と、実際の俺。かなり差がると思うで」

 いや、言われなくても良く分かります。
 とは思ったけど、それは言葉にはせず。

「そうなんだ?」

 とだけ返しておく。
 小さく息を吐いて、ずっと組んだままだった腕を解き、彼がテーブル越しに少しだけこちらに寄る。

「なんや知らんけど、工藤は俺ん事めっちゃ素直でええ奴や、思ってるやんか。なんでやろ?」

 そう言って見上げるようにこちらを見る瞳には、既に鋭さはなくなっていて。
 遠くから見ていた、工藤と会っている時の彼のそれに見えた。

 …なるほど。
 警戒を解くキーワードは、やっぱ『工藤』な訳ね。

『そりゃアンタ、工藤がベタ惚れだからだろ?アンタの中身も身体も』

 とは、素直に答える訳にはいかず。

「工藤はほら…天然自信過剰気質だから。そのせいじゃねぇ?」

 なんて、適当な事を笑顔を交えて答えてみると。

「そうかぁ?」

 彼は複雑な表情をして首をかしげた。

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