Anniversary
「しゃーないやろ。インターハイ予選優勝しとるし、近畿大会控えてんねんで?大将のオレが連日練習に居らんでどないするんや」
平次の学校が勝ったのは知っていたし、忙しいであろう事も予測できていた。
だから、平日に平次が会いに来てくれたのは正直驚き以外の何でもない。
その帰りっぷりにも、快斗は驚かされた訳だが。
「分かってるよ。だから、今度はオレが会いに行くって言ってんじゃん」
「別に無理して会いに来んでもええけど。大会終わるまでは忙しいしなぁ」
「あのな……」
平次と付き合いだして結構経つが、その付き合いは今時の高校生カップルにしては至って純粋。
手を握ったり、抱き締めてみたりは結構している気もするが。
キスすら思う程にはしていない。
「愛してるオレに、もっと会いたいとか思わない訳?」
「こうして話は常にしとるし……」
「どんだけ恋愛には草食系なんだよ」
普段の姿を見てるだけなら肉食系。
なのに色恋には本気で奥手と言うか何と言うか。
思わず快斗から乾いた笑いが漏れる。
「じゃ、近畿大会の応援に行く」
「来てくれるんか?」
元々行くつもりでは居た。
だが、返った声が予想外に弾んでいて嬉しそうで。
こう言う、瞬間瞬間。
平次の気持ちが見える一瞬は、本当に快斗の心をドキリとさせる。
「……オレが応援に行ったら嬉しい?」
「そら嬉しいやろ」
「そっか……」
直接的な言葉は使わない。
けれどもそれに代わる愛情表現は、いつもそこかしこにある。
ともすれば気付けない程、不器用なものではあるけれど。
「黒羽が応援してくれるのやったら、近畿大会も優勝でけるな」
「はは。だったらいいけどな」
去年まで。
誕生日なんて、ただ年齢が増えていくだけの日だと、快斗は思っていた。
「優勝出来たら。お祝いに、清い関係抜けてみる、とかどう?」
「はぁ?それ、オレに何の得があんねん」
「オレに今よりも更にふかーく愛される得」
「なんやそれ」
けれどそれだけではないと。
電話の向こう、ケラケラと笑う声。
その主が快斗に気付かせた。
「したら全力で負けよか」
「バカ言え。絶対勝て。何が何でも勝て」
幸せになる為。
この世に自分が産まれ。
「……勝つで」
そしてその幸せを分かつ。
誰かが、この世に産まれてくれた日。
「約束な」
「ん。約束や」
誕生日は、全ての始まり。
幸せが始まる、最初の記念日。
来年も、再来年も、その次からずっと先も。
年の数だけ、幸せが満ちて行く。
二人の笑顔の、数と一緒に。
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