Anniversary

「……なんや、どないしてん」

 箱に視線を落としたまま、黙ったままで。
 浮かない表情の快斗を、平次がそろそろと覗き込む。
 その表情は、とても不安気だ。

「迷惑やった?」

 申し訳なさそうに掛かる言葉に。
 首を数度横に振って。

「迷惑なワケあるかよ。嬉しいよ、凄く……」

 呟きながら、大切そうにケーキの箱を撫でて。
 微笑んだ筈の表情は、少しだけ歪んでいた。

「したら何でそないな顔……」
「オレさ。誰よりも深いって思ってたんだ」

 俯きながらのその声は、ぼそぼそと籠っているが。
 それでも、何を言っているかはちゃんと平次の耳に届いていた。

「この想いだけは。誰よりも深いって」

 聞こえる言葉に、平次がふっと小さく笑う。

「うちの親より?」
「……茶化すな」

 じと、と見上げると同時に上がった頭に。
 ぽんと平次の手が乗った。

「まぁ、折角の誕生日。そない辛気臭い顔しとらんと。開けてみ」

 くしゃり、髪を撫で。
 次いで、人差し指で箱を指す。

「ここでケーキ食うのかよ」
「ええから」

 両手をそっと箱に添えて。
 自分が支えているからリボンを解け、と。
 平次の瞳が快斗を急かす。

 真っ直ぐ見てくる猫のような丸い瞳。
 チラチラと、気にして見ながら。
 するり、星色のリボンを解く。
 
 恋色の飾り紙を外して。
 純白の蓋を開ければ。
 広がるのは、色とりどりの菓子の薔薇。

 その中央。

 To the one I love, Kaito.
 I hope you know how much you mean and how happy you always make me.
 Happy Birthday!

 プレートに書かれた、手書きのそのメッセージは。
 まるで、先程の自分に宛ててるようで。
 全てお見通しと言われてるみたいで。
 やはり少しだけ、快斗の心をちくりとさせる。

 けれども。

「スゴイやろ、このケーキ。ほんまもんのバラが乗っかってるんか思ったら、コレみな菓子なんやで?ほれ、いっこ食ってみ?」

 深紅のバラを抓んで差し出す。
 その微笑が。
 与える優しさの前には、そんな痛みも霞んで消える。

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