Anniversary

「黒羽。今お前、どこに居る?もううちか?」

 学校帰り。
 立ち寄った店を出て、歩き出した途端に鳴る携帯。
 聞こえる声の、背後は賑やかだ。

「どこって……家に帰ってる途中だけど」

 取り敢えず立ち止まり、近くの適当な場所に腰を下ろす。
 相手は歩きながら話しているのか、話す声は少し息が弾んでいた。

「そう言うお前はどこに居るんだ?」

 街の雑踏。
 たまに聞こえる周りの声は、全て標準語のように聞こえる。
 その音に耳を澄ましていると……――。

「見っけた!」

 突然。
 勢いよく押される背中と、掛かる声。
 驚いて振り返る。
 その瞳に映る、太陽のような笑顔。

 思わず、携帯を落としそうになった。

「……平……次?」

 凝視したまま動かないでいると、平次がその姿に満足そうな笑みを浮かべて。

「ははは。どや、びびったか」

 閉じた携帯をポケットに仕舞いつつ、実に楽しげな声色。
 少し前かがみに覗き込む瞳は、小さな悪戯っ子のそれのようにキラキラとしていた。

「びびったっつーか……まぁ、びびったけど。何で平次が居る訳?」

 ゆっくりと下ろした携帯を閉じ、制服のポケットにねじ込んで。
 まだ少しぽかんとした表情のまま、呆けた声で問い掛ける。

「何で、て。今日は特別やから。ガッコ終わってすぐ、新幹線乗って会いに来たったんや」
「特別……」

 初めて出逢った日でもなければ、告白した日や、まして付き合い始めた日でもない。
 
 記念だとか特別だとか。
 そんな想い出のある日だったか……?
 
 特別だから。
 言って微笑を浮かべる平次を見ながら。
 瞬時に色々な考えが、快斗の頭をぐるぐる廻る。

「……なんや?何の日か分かってへんのかいな」

 表情を変えたつもりは無かったが、どうやら取り戻せなかったポーカーフェイスに。
 みるみる平次の瞳に呆れが混じった。

「何ちゃら記念とか、どーでもええ事はしっかり覚えとるクセして。肝心な事はさっぱりやな」
「って言われてもな……」
「まぁええわ。ほな行こか」

 言って、手を引く。
 この後予定があるとか、そう言う事は一切考えていならしい。
 まぁ実際、特に予定は無かったのだが。

「行くって何処に……」

 少し戸惑い気味の快斗をよそに。
 手を掴んだままの平次が。

「ええから」

 言って。
 に、と笑った。

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