You Can't Hurry Love

「だよな。来いっつったのはオレだけど、ホントに早退してまで会いに来ちゃうくらい、オレの事大好きだよな。うん、分かってるって。すーぐ真面目に考え込んで。いや、可愛いよね、ホント」
「……え」

状況を把握するより先に、景色が室内から天井に変わって。
天井と自分の間に入って来た黒羽の笑顔を、服部は何度か瞬きをしながらに眺めた。

「食べちゃいたい位可愛いんだけど、実際もう喰っちゃっていいよな?」
「……え、ええワケあるかい……」

唇の形をなぞる指。
服部は、引き攣りながらふるふると首を横に振るが。

「じゃあ、いただきます」

首筋に触れる唇。
脇腹を滑る手の平。
ざわ、と肌が泡立つ。

「っ……調子に乗んのも……大概に……せえっ!」

ボス、と。
鈍い音と共に、服部の膝が黒羽の鳩尾に埋まり。
ぐえ、とカエルの様な声を出した黒羽が、服部の上で蹲った。

「強姦魔かおのれはっ!この、エロバカ!!」

蹲る黒羽を押し退けて、起き上がり、ベッドを降りて。
乱暴に掴んだシャツを羽織りながら、ボタンをとめると。
服部は、細めた瞳で黒羽を見下ろし、静かな声で言った。

「好きと、ヤりたいは別や。次やったら終わりやからな。覚えとけ、ドアホ」

蹲った格好で転がったまま、咳き込むのも止まって、静かになっていた黒羽がポツリ呟く。

「……好きだったら触りたいじゃん。全部欲しくなんじゃん……」

その言葉に、表情は変えずに服部が細く息を吐いて。
片腕を伸ばすと、くしゃり黒羽の髪を混ぜる様に撫でた。

「させへんかったら、嫌いになるんか?」

問いに、黒羽は答える代わりに首を横に振って。
髪を撫でる手を緩く握った。

「んなワケねーだろ。ねーけどさ……」

言いながら起き上がると、向き合った服部を見上げて見つめ。

「健康男子だし」

言うと。

「オレもや、っちゅーねん」

怒った顔を作って返した服部は。
すぐに表情を緩め笑った。
釣られる様に黒羽も笑って。
先程迄の空気はどこへやら。
数分後には、じゃれ合う仔犬達の様に。
残り時間いっぱい、仲良くゲームで遊ぶ2人がそこに居た。



「使い道、絶対間違ってる気がする」

休憩タイムが明け、変装を拒んで素のままの服部と、コソコソとホテルを後にして。
ネオンが煌き出した街で、黒羽が小さく溜息を吐く。

「ええやないか。ゲームもアレはアレでおもろかったし。飯も美味かったし」
「……そうだな」

服部に、にこやかに言われて。
一瞬の間の後、更に溜息を吐く黒羽だった。



「したら気ぃ付けてな」

キヨスクで買った土産を持たせて。
白線の内側へと下がろうとする、その手を掴んで引き止めて。
何か言いたげな瞳を、無言で向ける黒羽に。
少しだけ、困った様に微笑んで。

「またすぐ会える、て」

言って、掴むその手を包んでやんわり離させると。
耳元に顔を近付け。
ぽそ、と。
一言告げてすぐに離れた。

「それって……っ?!」

黒羽が身を乗り出して、服部が笑みを向ける。
同時に閉まる扉。
ゆっくりと動き出す車体に合わせ、離れてゆく距離。
お互いが見えなくなっても。
それぞれに、その場所から暫く動かなかった。



次の日。
別れ際の服部の言葉に浮かれ過ぎて、授業に身が入らず怒られまくりの黒羽と。
自分が蒔いた種、早退理由の質問攻めにウンザリの服部と。

そんな2人の交際は、まだまだ始まったばかり。

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