You Can't Hurry Love

「え、もう脱ぐの?積極的だなー。シャワーとかいかねーの?」

 部屋に入るなり面を取り、服を脱ぎだす様を見て、黒羽が口笛を吹きながら感嘆の声を上げた。

「アホか!ちゃうわボケ。さっさと自分に戻りたいだけや。ちゅーか、そんなんする気ないわい」

 脱いだ服をその辺に投げ捨てるように置き、鞄から制服を取り出して羽織ろうとする。
 その手を掴んで止めて、黒羽が思い切り背後から服部を抱きしめた。

「なんやねん。邪魔や、放し」
「ヤダ」
「嫌ちゃうわ。ええから放……」

 続く言葉は、唇を塞がれた事により飲み込まれる。
 執拗に口付けを繰り返した後、やっと離れた唇から、ぽつりと言葉がもれた。

「……本当は分かってんだ」

 その言葉は、いつもの声のトーンとは少し違って。
 静かに服部の耳まで届く。

「何が」

 唇は解放したが、身体は放す気がないらしく。
 抱きしめる腕の力は少し痛いぐらいだった。
 
「平次は優しいからさ。だから付き合ってくれてるだけなんだよな?」

 見つめてくる瞳は、酷く真剣なもので。
 真面目な顔している時、間近で見るとやっぱ綺麗な顔をしている、とか服部は関係ない事を一瞬考えた。
 その考えを払って。

「……何がホンマは分かってる、や。アホちゃうか」

 少しだけ目を伏せ、小さな息を吐く。
 再度上げて合う視線が強くて、黒羽の瞳が少しだけ動揺で揺れる。

「同情で付き合うてたら限ないやんけ。しかも、なんで好き好んで男と付き合わなアカンねん」

 抱きしめる腕の力が緩み、服部を包んでいた腕が下へと落ちた。

「はは……ちゃんと付き合ってるって思ってたんだ。知ってるか?オレ、告った後……返事貰ってねーんだ。どんだけ不安だったか、お前に分かるかよ?」

 自嘲する声と笑みがもれて、黒羽が服部に背を向ける。
 服部が驚いた顔をした後、困ったようにその背中を見つめ、伸ばした片手で黒羽の肩に触れた。

「……ホンマに?すまん。気ぃついてへんかった……」
「……じゃ、今その返事くれる?オレの事、ちゃんと好きか?」

 振り向いた瞳が本当に寂しそうで。
 そのまま優しく抱き寄せ、ぎゅっと強く抱きしめた。

「……男が好きとか、ホンマはあんま認めたないねんけど……」
「けど?」
「……オレは……せやから……」
「だから?」

 黒羽の両手が服部の背中に回り。

「……お前が……す……」

 顔を上げ、ぶつかる瞳。

「……き……」

 黒羽の瞳が不穏に笑う。

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