You Can't Hurry Love

「え?今から??今ガッコなんやけど」

 休み時間、着信の履歴に電話を掛けて。
 聞こえたセリフに、服部の瞳が少しだけ見開かられた。
 その後、少しだけ困った様な顔になる。

「……うーん……。分かった。ああ、30分くらいやなぁ。そこで待っとけ」

 電話を切り、カバンを置いて中身を詰める様を見て。
 和葉が傍に寄って来た。

「平次。あんた何帰る準備してるん?」
「あー、和葉。オレ早引けするから、センセには適当にゆうといて」
「適当て……」

 手をひらひら舞わせつつ教室を出てゆく姿を、眉根を寄せて見送り。
 その後の授業にて。

「センセ。服部君は、王子様に会いに行くゆうて早引けしましたー」

 にっこり笑って報告され。
 後にクラスメイトの質問攻めに遭う事を、この時の服部は知らない。



 カウンターでコーヒーを買い、店内の奥に進むと。
 見知った顔がにこやかに出迎え、その様に小さく息を吐いた服部が、向かいの席に静かに腰を下ろす。

「黒羽、お前ガッコは?」
「起きたら、猛烈に平次に会いたかくなったからズル休み」

 全く悪びれた様子もなくそう告げる。
 黒羽の笑顔を見ながら、以前にも似たようなセリフを聞いた事があるな、と服部は思った。

 あれは、3ヶ月ぐらい前だったか。
 家に帰ると、自分の部屋に黒羽が居た。
 驚いて尋ねたら、『会いたいから学校早退して来ちゃった』と言って。
 続け様に、いきなり告白された時には、本気で心底驚いた事を記憶している。

「単位足らんようになっても知らんど」

 コーヒーを口に運んで、細めた瞳で見遣ると、黒羽の瞳も別の意味で細まった。

「大丈夫。そこはちゃんと計算してるから」

 どんな憎まれ口もさらりと躱される。
 だから滅多に喧嘩にはならない。
 言い合いにもならない。

「さよけ」

 瞼を伏せ、カップをテーブルに静かに置いた。



「取り敢えず。オレこのカッコやし、まだ堂々と出歩かれへん時間なんやけど。こっからどないする?」

 制服を見て、次に時計を眺めれば、時刻はまだ12時前。
 平日のこの時間、普通の学校ならばまだ生徒は学校に居る。

「んー……そうだな。着替えに家に戻るワケにもいかないんだろうし……ホテルでも行こうか」
「……冗談やろ?」
「どんな部屋がいい?」

 向けられる笑みには、盛大な溜息しか出ない。

「アホか。それこそこのカッコで行けるかい」
「コート着てマフラー巻いちまえば分かんないって」
「分かるわ、ボケ」

 それ以前に、こんな明るい時間、誰に見られるか分からない。
 学校をサボり男とホテルに入って行った、なんて噂が広まったら。
 洒落でなんて済まされない。

「じゃあ、変装する?」
「は?」

 言うと、黒羽はいそいそと隣に置いてあるデカい鞄を漁り始める。
 どうやら変装する為のアレコレが詰まっているようだ。

「……お前、オレに何さす気ぃや……」

 目の前に積まれてゆく化粧品やら鬘に服。
 そのどれを見ても……。

「女の子になっちゃえばバレる度ゼロじゃん」
「嘘や」
「取り敢えず客は少ないし。ここ、死角だから見えないし。服はトイレで着替えりゃいいし。ま、ちゃっちゃとやっちまおうな♪」

 抗議も届かず。
 1時間後、そこには原形を留めない、見事な女子が居た。

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