初詣
帰り道、約束通りに買ってもらった団子。
その味は、少し辛くて甘い。
「ど?美味い?」
買った自分は食べず、平次にだけ食べさせて。
快斗はただコーヒーを飲みながら、平次が食べてる姿をずっと見ている。
正直、見られながらでは食べ辛い。
「……美味い。けど、ずーっと見られとると落ち着かん」
皿を置き、小さく息を吐いて。
団子と一緒に出てきたお茶を静かに啜る。
「いや、何か食ってる時の平次って、ホント幸せそうだよなーと思って」
「ホンマに幸せやからな」
美味いモノを食べている時と、熱い風呂に浸かる時。
冬場の温い布団にくるまる瞬間、等々。
幸せな時などいくらでもある。
「一番は?」
湯呑を置いた平次に、両手で頬杖ついて快斗が尋ねた。
斜め上に視線を上げて、暫く考え込んでいると。
「オレは、平次と居る時が一番幸せだけどな」
聞こえたセリフに、そちらに視線を向ける。
同じ姿勢のまま、ホントに幸せそうな顔をしている快斗が映った。
一瞬呆けたが、はっと我に返ればここは団子屋。
周りには沢山の人、人、人……。
「大丈夫。境内もだったけど、ここも新年の空気で浮かれてる人ばっかだから。誰も他人の会話なんか聞いちゃいねぇって」
平次の心を見透かしたように、快斗が笑いながら言って頬杖を解く。
椅子の背に体を預け、少しだけ見上げるような形になる瞳は、悪戯っ子のようなそれに見えた。
「で、一番は?」
再度問われ、瞳を伏せて小さく息を吐きながらに笑う。
「黒羽と居る時」
言えば。
悪戯っ子の瞳が、嬉しそうに笑う。
「はい、よく出来ました」
ご褒美。
言いながら差し出された団子を手に取る。
そのまま口へ……。
先程のモノとは違い、仄かな甘さだけが引き立つ。
それは二人の恋、まるでそんな味だった。
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