HappyChristmas

 煌びやかな装飾と派手な電飾。
 そこここに流れるメロディー。
 見た目にも耳にも賑やかな街。
 恋人達にも家族にも……誰にも等しく優しい日。
 今日はクリスマス。



「……遅い」

 約束の時間はとうに過ぎ。
 待ち続ける事、早40分超え。
 待ち合わせ場所がカフェで良かったと、温いコーヒーを口に運びながら服部は思った。

 常は、服部よりも先に来て居る事が多い黒羽。
 その彼が、連絡もなく遅れている。
 電話を架けてみてもお決まりのアナウンス直行。
 メールも戻って来ない。 

「事故とかちゃうやろな……何してんねん。早よ来いや」

 流石に心配になるものの、電話もメールも通じないのではどうしようもない。
 家にも架けてはみたが、彼の母親からはもう出掛けた、と伝えられている。
 探しに出たとして、万が一入れ違いになってしまっては意味がない。
 途方に暮れて溜息を吐いた。

 その背中に。

「悪い!思い切り待たせちまったな」

 待ち続けたその人の声が届いて、顔を上げて振り返る。
 息を切らせ、肩で息をしながら。
 何故か濡れてる黒羽の姿が目に飛び込んできた。

「……いや、お前……どないしてん、そのカッコ……」
「はは……ちょっと来る途中でな……っくしょ!」

 雪は降っていないとは言え、本日の気温は一桁。
 濡れて歩いて、平気な筈がない。

「連絡したかったんだけどさー……携帯も濡れちまって、使いモンにならなくて。ホントごめ……っくしゅ!」
「アホか。そんなんどーでもええわ!取り敢えず着替えな……風邪ひいてまう」
「あははー、もうひいてっかも」

 言ってへらり笑う黒羽に半ば呆れつつ。
 席を立ち、手首を掴んで引っ張りながらカフェを出た。



 すぐに服を買って着替えさせたものの、自分で言っていたように、やはり風邪をひいてしまっていたようで。
 クシャミだけならまだしも、どうやら熱まで出てきたらしい。
 顔が赤く、呼吸も浅い。

 近くのベンチに座らせて、その顔を覗き込む。

「……帰った方がええな、コレ。いや、病院か……まだやっとるかな……」

 額に手を当ててみれば、その判断が妥当としか言えない熱さ。
 携帯を取り出して、近くの病院を検索していると。

「いいって……大丈夫だから」

 それを邪魔するように、片手で画面を覆われる。
 舌打ちしながら振り返ると、画面を覆っていた手が服部の頬を包んだ。

「やっと会えたのに……クリスマスだぜ?オレは、大丈……夫」

 するり、包んでいた手が落ちて。
 瞳を閉じて、苦しげな息を漏らすその姿は、とてもじゃないが大丈夫には見えない。

「そんな姿見せられて。オレが大丈夫ちゃうわ、ボケ」

 溜息を吐きながら、くしゃり前髪を撫でて。
 再度携帯の画面を開いた。

[ 34/48 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -