夏の幻(快×平/+新)
2階の部屋の窓からは、太陽の光で輝く入り江が見える。
彼がいつも見ている景色。
今では、唯一の世界。
「新ちゃん。服部君が来てくれたわよ」
声の方を向く。
海軍の白い制服を着た少年が微笑みかけた。
「今日は調子ええみたいやな」
その姿は、平次に面影がよく似ている。
苗字も平次のモノと同じだ。
ベッドまで歩み寄った彼を新一は笑顔で迎え、その手を握った。
「服部。今日は長く居られるのか?また外のいろんな話……―――」
「オレの居る部隊な、出兵が決まったんやて」
彼の言葉に、新一の表情が一気に曇る。
握る手に力が籠った。
「いっぺん海に出たら、もう長い事戻って来られへん。せやから、お前の顔見とこ思って……」
彼の手が、新一の頬に添えられる。
表情は新一と対照的に穏やかだ。
「……それでも、戻って来るんだろ……?戻って、来るんだよな?!」
彼の両肩を掴み、揺さ振りながらに言って。
その後激しく新一が咳き込む。
「アホ。大きな声出すからや。平気か?」
「……平気じゃねーよ……。平気なワケ、ないだろ」
胸を抑え、苦しそうに息をしながら新一が呟くように言う。
背中を摩ってやりながら、彼は困ったような笑みを浮かべた。
「戻って来る。約束するから……せやから、お前も生きて待っといて」
「絶対だからな」
「ああ」
顔を上げた新一が、そっと彼に口付ける。
その頬を、涙が伝った。
目を覚ますと、暗い部屋には自分だけが居る。
そこは気を失った時に居たのと同じ場所のようだった。
だが、様子はだいぶ違っている。
その荒れ様から、長く誰も住んで居ない事は見て取れた。
「平次……」
起き上がろうとするが、身体が異常なまでに重い。
それでも、気力で何とか起き上がり、身体を引き摺るようにして扉を抜ける。
玄関ホールの中央にある階段。
それを登って、右に進んだ突き当りを更に右に曲がって、突き当たった部屋が新一の部屋だ。
先程の夢が、館の記憶を垣間見たものなのであれば。
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