夏の幻(快×平/+新)
少年の名前は工藤新一。
年は二人と同じ18。
両親は海外に居り、一人この館に住んでいる、との事だった。
「……こんだけ広い屋敷に一人で……?お手伝いさんも無しに?」
それにしては綺麗過ぎるほどに片付いている。
一人と言うのが本当で、お手伝いも無しにこの状態を保つのは……。
相当大変なのはすぐに想像でき、不自然だ。
「いや。お手伝いさんなら居るよ。朝から昼まで来てもらって、夕方からは一人で居るんだ」
同じ年、と言う事で敬語を無くした新一が答え、微笑む。
「ほんなら夜も一人か?話し相手も居らんで、寂しないんか?」
「寂しい……そうだな。寂しい、のかな。もう、分からないけど」
暖炉の上の写真を眺め、新一が目を細める。
写真には、彼とその両親らしき人達がモノクロで映っていた。
「じゃあ、この食事は……そのお手伝いさんが?」
料理を口に運びながら、快斗が問う。
新一は無言で頷いた。
その様子に、快斗の手が止まる。
「……平次。今すぐここを出よう」
ナイフとフォークをテーブルに置き、立ち上がって快斗が平次の手首を掴む。
突然の事に、平次が驚いた顔と声を向けた。
「な、何ゆうてんねん。今から外なんて行ったら……!」
「いいから早く立って!」
無理矢理立たせて連れ出そうとされるのを、力いっぱいに平次が振り切る。
新一も立ち上がり、二人の方を見ている。
「お前、頭おかしいんちゃうか?!また迷ったら、ホンマ洒落にならんって!」
「おかしいのはオレじゃない!この屋敷と……そこに居る新一だよ!」
お手伝いさんは日中だけ居て、夕方には帰ると言っていた。
そして、自分達が訪ねて来てから一度も、そのお手伝いさんとやらに会っていない。
新一も、ずっと自分達と一緒に居り、姿を消していないので、お手伝いさんと接触したとは思えない。
その状況で……自分達の分も、食事が用意されているのはおかしい。
そして、家族写真や、その他の写真全てがモノクロである事も。
快斗が睨むように。
また、平次は訳が分からないと言った表情で新一を見る。
新一の口元には、うっすらと笑みが浮かんだ。
「……まだ出て行かないよ。だろ?」
新一が平次を見る。
平次の肩が少しだけ動いて、瞳から光が消えた。
「平次?!」
ふらふらと新一の方へと歩む平次を止めようとするが、快斗はその時初めて身体が動かなくなっている事に気付く。
「ずっと待っていたんだ。ずっと……」
「何を言ってやがる……」
新一が平次を抱き締め、肩越しに快斗を見る。
目が合った、瞬間に意識が途絶えた。
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