夏の幻(快×平/+新)
「すんまへーん……誰か居てはりますかー……?」
呼び鈴を鳴らしても誰も出てくる気配がなかったので、扉に手を掛ければそれはすんなりと開いた。
そろそろと中を覗き、尋ねてみるが何も声が返らない。
「……誰も居てへんのかな、ここ……」
「んな訳ねーだろ。明かりだって点いてるし、それに……」
快斗が続けようとした時。
中央にある階段の上から声が聞こえ、二人はそちらを仰いだ。
「……どなたですか?」
声の主は、自分達と同じ年位の少年。
その面影は、快斗にも似ている。
彼の姿を確認し、快斗の心が波打った。
それは、自分に似ているせい、ではないように思えた。
「あの、オレ等道に迷ってしもて……」
「ちょっとだけ、休ませてもらえませんか?」
平次がそちらに寄ろうとするのを止め、快斗が前に出て降りてきた少年と向かう。
二人の姿を見つめる少年の瞳が、少しだけ細められる。
「……だいぶ濡れてるようですね。とにかくどうぞ、こちらへ……」
言うと、笑みを浮かべて奥へと向かう。
その姿から目を離さず、無言で着いて行く平次に、快斗の心はまたざわざわと波立つ。
「平次」
名を呼び、肩を掴む。
ビクリと肩が震えて、振り返った平次の瞳は、いつもの彼のそれで。
快斗は安堵の息を吐いた。
「とにかく……少し休んで、そしたら……すぐまたホテルを探すぞ」
「なんで?もうココに泊めてもらった方がええんちゃう?」
「いいから」
先を行く少年の背中に、不安に似た何かを感じると、快斗は思っていた。
心がざわめくのも、恐らくそのせいだと。
「……この時間に、また山に戻るつもりですか?危険すぎる。泊まって行って下さい。部屋なら、いくらでも空いてますので……」
二人の会話が聞こえたのか。
少年が振り返り微笑む。
「すんまへん。ほんならお言葉に甘えて……―――」
「平次!」
呼んでも、今度は平次は振り返らず。
そのまま少年と奥の部屋に入って行く。
「……なんか……やべーだろ、絶対……」
快斗もすぐにその後を追った。
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