夏の幻(快×平/+新)

「すんまへーん……誰か居てはりますかー……?」

 呼び鈴を鳴らしても誰も出てくる気配がなかったので、扉に手を掛ければそれはすんなりと開いた。
 そろそろと中を覗き、尋ねてみるが何も声が返らない。

「……誰も居てへんのかな、ここ……」
「んな訳ねーだろ。明かりだって点いてるし、それに……」

 快斗が続けようとした時。
 中央にある階段の上から声が聞こえ、二人はそちらを仰いだ。

「……どなたですか?」

 声の主は、自分達と同じ年位の少年。
 その面影は、快斗にも似ている。
 彼の姿を確認し、快斗の心が波打った。
 それは、自分に似ているせい、ではないように思えた。

「あの、オレ等道に迷ってしもて……」
「ちょっとだけ、休ませてもらえませんか?」

 平次がそちらに寄ろうとするのを止め、快斗が前に出て降りてきた少年と向かう。
 二人の姿を見つめる少年の瞳が、少しだけ細められる。

「……だいぶ濡れてるようですね。とにかくどうぞ、こちらへ……」

 言うと、笑みを浮かべて奥へと向かう。
 その姿から目を離さず、無言で着いて行く平次に、快斗の心はまたざわざわと波立つ。

「平次」

 名を呼び、肩を掴む。
 ビクリと肩が震えて、振り返った平次の瞳は、いつもの彼のそれで。
 快斗は安堵の息を吐いた。

「とにかく……少し休んで、そしたら……すぐまたホテルを探すぞ」
「なんで?もうココに泊めてもらった方がええんちゃう?」
「いいから」

 先を行く少年の背中に、不安に似た何かを感じると、快斗は思っていた。
 心がざわめくのも、恐らくそのせいだと。

「……この時間に、また山に戻るつもりですか?危険すぎる。泊まって行って下さい。部屋なら、いくらでも空いてますので……」

 二人の会話が聞こえたのか。
 少年が振り返り微笑む。

「すんまへん。ほんならお言葉に甘えて……―――」
「平次!」

 呼んでも、今度は平次は振り返らず。
 そのまま少年と奥の部屋に入って行く。

「……なんか……やべーだろ、絶対……」

 快斗もすぐにその後を追った。

[ 39/48 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -