MAGIC(+K)

「冗談には聞こえなかったな」

 新一の言葉に、口元に笑みを浮かべると。
 月明かりの光の中、キッドの姿が溶けて消えてゆく。
 キッドが消えた光の中に、彼の過去の言葉がよみがえる。

「……求めたのはオレ、か」

 確かに、そうかも知れないと今は思う。
 退屈な毎日を変えてくれる、そんな誰かを、新一はずっと求めていたような気がする。
 限りある時間を、共に輝かせてくれるような、誰か。

「なにしてんねん。もう朝か?」

 目を擦りながら、いつの間にか目覚めた平次が、起き上がってこちらを見ている。

「まだ夜中だよ」

 部屋に戻り、窓とカーテンを閉めてベッドへ戻る。
 平次をそっと抱きしめてみると、今までは聞こえなかった音が耳へと届いた。
 時を刻む、平次の音。

 その音を聞きながら、新一はもう一度眠りについた。
 今までと少し違う、心地よい眠りに。



「なんやこれーっ!」

 聞こえてきた声に、慌ててキッチンへと向かう。
 包丁を片手に、逆の手をじっと見ている平次が居る。

「な、なんだよ、どうした?」
「何やこれっ?!指先がドクドクゆっとる!!」

 包丁で切ったらしい。
 向けられた手の指先から、赤い血が滴り落ちている。

「これは血!っつーか、ドクドクじゃなくて痛いだろ!あー、もう。何やってんだよ」
「これが痛い?!したら、めっちゃ痛い!!」
「こんだけ切ってりゃ当たり前だバカ!」

 取り敢えず切れた指先を口に含んで、流れる血を舐めとってやると、手近にあった布巾で押さえてリビングへと連れて行く。
 救急箱から絆創膏を取り出して、その指先へと貼り付けた。

「……昨日までこんなんならへんかったのに……」

 絆創膏に違和感があるのか、変な顔をしながら指先を見ている。
 取り敢えず、今まで料理していてどれだけ切っていたのか知れないが。
 その顔がおかしくて、新一は思わず噴き出してしまった。

「なにわろてんねん」
「いや……ごめん」

 じと、と見られて。
 笑いを抑えながら、絆創膏の指ごと手を両手で包み込み。
 平次の瞳に、細めたそれで笑いかける。

「人間って、意外と不便だろ?けどこれが、生きてる証なんだよ」

 新一の言葉に、平次は一瞬呆けたような顔をしたが。
 何度か新一の瞳と手を交互に見て、最終的には瞳に落ち着き。

「……人間?」
「そう。オレと同じ、人間」

 言葉を聞いて。
 ぱっと笑顔にった平次は、ぎゅうと新一に飛付くように抱きついた。

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