MAGIC(+K)
真夜中。
閉めた筈のカーテンが揺らぎ、窓から差し込む月の眩しさに目が覚めた。
ベランダに、マントを靡かせる白い人影。
「……取扱説明書、ちゃんと読まなかったのかよ……」
キッドがこちらを見て立っている。
隣に寝ている平次を起こさぬよう、そろりとベッドを抜け出して。
ベランダに出て窓を静かに閉めた。
「読んだよ。説明書っつーより、アンタ個人の意見はな」
「読んで守らないとか。天邪鬼かよ、アンタ」
「そうかもな」
腕を組みながらに答えるが。
聞きながら、キッドの視線はベッドの上の平次に注がれているようだ。
「ったく。大人しくオレの助手やってりゃ、永遠の時の中、面白楽しく暮らせたってのに。あのバカ」
口から出ている言葉と、その表情は相反するもので。
慈しむ色が、その瞳にはある。
「よっぽど大事だったみてーだな」
「当たりめーだろ。オレが造ったんだ。子供みたいなもんだぜ?子供が愛しくない親がどこに居る」
「……そうだな」
それだけか?
新一はそう聞きたかったが、その言葉は飲み込んで。
キッドの視線の先に居る、平次の方へと瞳を向けた。
それと同時に、キッドの視線は新一に向けられる。
「……さて、と。では、そろそろ約束を果たさせて頂きましょうか」
「約束?」
ひらり、あの時とは別の契約書が現れて。
下にはキッドと、平次の署名が記されていた。
その書面の中、一文をキッドが指差す。
「昔の話です。私の助手をしていた人形が、読み漁る書物の中で人間を知り、人間になりたいなんて言い出しましてね。永遠の時を生きる私の助手は、有限の時を生きる人間では務まらない。相当説得はしてみたのですが……結果が、貴方が出会った時の彼ですよ」
指差す所には。
「……目覚めさせた者と愛によって結ばれる事あらば……」
永遠の命と引き換えに、人間としての生を与えられるものとする。
そう書かれていた。
「まさか本当に王子様が現れるとは。お姫様ではないところが、彼もさぞ残念でしょうけれど……まあ致し方ない」
言いながら笑って。
キッドは窓を開けると、ベッドへと向かい歩いて行く。
「……元気でな。大事にしてもらえ」
眠る平次の髪をそっと撫でて。
何かを呟いたと思うと、額に当てた手が光り。
その光は一瞬で消えた。
「貴方の方も、契約は一生涯ですよ。お忘れなく」
新一の所へ戻って来ると、そう呟いて一度は背を向け。
もう一度振り返り。
「……泣かせるような事しやがったら、すぐにオレがすっ飛んで来てぶん殴るからな」
襟首を掴んで、低い声でそう言い。
手を放すと同時に、緩い表情に変えて。
「なんて、冗談です。今後も、平次を可愛がってあげて下さい」
ひらり片手を舞わせて、また背を向けた。
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