MAGIC(+K)

「やべ……すっかり遅くなっちまった」

 家へと続く道をひた走る。
 次第に見えてくる家には、玄関とリビングだけに明かりが見えた。

「……待ってる……よな、こりゃ」

 予定では、もう数時間前には帰って居る筈で。
 そのつもりで、平次には晩御飯は一緒に食べると伝えていた。
 辿り着いて、急いでリビングに向うと。
 そこに一人、座る平次の背中が見える。
 どのくらいの時間、その状態で居たのかは分からない。

「……ただいま……」

 背中に声をかける。
 返事はない。

「遅くなってゴメンな」

 近付いて、顔を覗き込む。
 その表情に、はっとした。

「……平次……?」

 怒っているものではなく。
 寂しがっている、そう言ったものでもない。
 まして、拗ねているものでもない。
 非常に複雑な、その表情。
 平次は人形で、感情は無い……筈だ。

「早く帰るゆうたやないか」

 ぎゅ、と平次の片手が新一のシャツを掴む。
 複雑な表情は変わらない。

「飯も気張って作ったのに……すっかり冷めてもうた」

 掴む手に力が籠り、俯き加減の瞳は、今にも泣きそうなそれに見える。
 涙なんて浮かんではいない。
 それでも。

「ごめん」

 無い涙が、見えたような気がして。

「ごめんな、平次」

 両手でそっと顔を包んで。
 上を向かせると、唇に自分のそれを落としてそっと触れた。
 完全に、無意識で。

「……謝る時にちゅーするて、オレの知識にあれへんのやけど。そーゆーモン?」

 唇が離れると、いつもの顔に戻った平次がそう呟いて。
 見上げる瞳に、一気に自分が何をしたのかを思い知らされる。
 途端、色んな感情が新一を襲って。
 自分の口元を片腕で覆って、返す言葉は出て来ない。

「新一?」

 怪訝そうな顔を作って平次が立ち上がり、新一の腕をどかせて顔を覗き込む。
 間近に見えるその瞳に、一つの感情だけが残されて。
 今度は無意識ではなくて、意識的に。
 再度、新一は平次に口付けた。

「違うよ。このキスは、謝る時にするモンじゃなくて。愛しいと思った時にするモンだ」
「愛しい……?」

 首を傾げ、片眉を上げている平次に。
 瞳で微笑み、ゆっくり頷く。

「考えなくていい。……腹減ったろ?飯にしよう」
「……んー」

 くしゃり、髪を撫でて。
 平次の手を引いてキッチンへと向かう。
 すっかり冷めてしまった料理を温め直し、一緒に皿に盛りつけて。
 リビングで食事をしながら、キッドの取り扱い説明書の内容を思い返していた。

 6番目の項目。
 その結果が、何であるのか。
 見てみたいと思った。

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