MAGIC(+K)
家に着いてまず確認したのが、契約書と一緒に渡された取扱説明書。
とは言え、その場でキッドが走り書いたものなので、ただのペラいノートのような紙である。
内容は、以下のものだ。
『1. 目覚めた平次は、人形であって人形ではないので、生きた人間と同様に接する事。
2. 食事、睡眠は十分に摂らせ、風呂も毎日入れる事。
3. まぁ、とにかく人形だから何やっても死なないけど、それ以外は殆ど人間と変わらないから、家族が増えたと思って対処してよ。
4. あくまで家族と思って、平次に特別な感情は持たないように。
5. 平次は人形だから、その言動に何か期待したところで、そこに感情とかないから。
6. 万が一アンタが特別な感情持っちゃったとして、ヤれちゃったりもするけど、ヤっちゃうと……いや、教えない。
7. てゆーか、ヤるな。
8.アンタが朽ち果てたら回収に行くから、それまで今のままの平次で保つ努力をするように。
以上。』
「……なんか、どうでもいい……っつーか、ただの個人的意見じゃねーの、これ」
しかも、あからさまにキッドの平次に対しての、個人的感情がありありと覗える。
平次の言っていた、思うようにならないから眠らした、と言うのは。
自分に特別な感情を平次が抱かなかったから、なのではないのか。
そんな邪推さえできそうだ。
「読まなきゃ良かった……」
疲れを増しただけのその紙を、くしゃりと握り潰して。
新一は盛大な溜息を吐いた。
その様子を、向かいの椅子に座って見ていた平次が。
「何しんどなてんねん。てゆーか、一個聞いときたい事あんねんけど」
言って、身を乗り出して新一の腕を掴む。
それに顔を上げ、瞳が合った。
「これから自分の事、何て呼んだらええかな。えーと……王子様?」
首を傾げ。
目覚めた時のように、その瞳が笑う。
喋っている時はそうでもないが、こう言う時の瞳は引き込まれそうになる。
質問に黙ったままの新一に、平次の表情から笑みが消え、不思議そうなものになった。
それに、はっと意識が戻る。
「……ああ、オレの事?……別に、新一でいい」
伝えて、笑みを返してやると。
に、とまた笑みを浮かべて。
「ん、分かった。新一やな」
満足そうに答えた。
こんなに表情豊かで、それでいて感情は無いと言う。
人間にしか見えないのに、動いて喋っていてもただの人形。
そんな不思議な存在の平次と、彼を目覚めさせた新一。
二人の生活は、この日から始まった。
この世界の事は、眠る前にキッドの書斎にある本で、色々知っていたと言う。
だからある程度の常識や、知識は持ってはいるのだが。
それでも、書物で知りえなかった物に関しては、まるで子供の様に質問攻めになるので。
それにウンザリする場面も多々あった。
けれど、逆に新しい物を教えてやる楽しさもあり。
それなりに、平次との生活は新一にとっては楽しいものになっていた。
最初は全く出来なかった掃除や洗濯、料理等。
それらも、新一が学校に行ってる間に読んだ本や、テレビ番組で勝手に学習して上達していった。
感情が無いなんて嘘のように、新一の話は表情豊かに応えてくれたし、自分が気に入らない事には拗ねた様な仕草だってする。
それが、一緒に観ていたドラマからの学習だったのだとしても。
表現が合っているのなら、それは感情を持っている、本当に一人の人間と言っても良いのではないか。
事実、一時帰国した新一の両親が平次を見た時。
自分達が居ない間に、息子が知らない少年と同棲している、遠い世界へ行ってしまった、と驚かれたぐらいだ。
人形だと言ったら、それ以上に驚いてはいたが。
新一も、平次が居る事が当たり前で、人形である事をその時まで忘れ掛けていた。
その事実に、話ながら自分で驚いていたのはつい最近の事。
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