すたあの恋

 工藤新一と言う、快斗の友人を家に招きいれて、早数日。
 彼は自分が居ない間も、ずっとマンションの部屋に居るらしく、全く外へ出る気配が無い。

『部屋が見つかるまでの間』

 確か、彼はそう言って自分の部屋に住む事になったのではなかったか。

「…ホンマに部屋見つけて出てってくれるんやろな…。ずっと居られたらどないしよ」

 一人増えた事で、食費は当然2倍。
 今の平次の悩みは、専ら生活費の事。
 通帳を眺め、その残高に溜息がもれる。

「…何してんだ?」

 悩みの元凶の声が、背後から暢気に聞こえた。
 答える気力も無くて、更に溜息をこぼす。

「え、お前貯金これしかねーの?」

 ひょい、と通帳を取り上げて覗いた彼が、その目を丸くしている。
 その様を見て、どこかでぷちり、何かが切れた気がした。

 誰のせいでこうなったと思っているのか。
 確かに、元々大金を持っていた訳ではない。

 けど。

 自分は学生。
 親からの仕送りも貰っていない。
 純粋にバイト代だけでの生活。
 それをこの男は分かっているのか?

 何かが悔しくて、膝の上で拳を握って震わせていた。
 何が悔しいのか、よく分からなかったけれど。

「…最初に言ってくれりゃ良かったのに…」

 新一の分の食費が増えた事で、平次のバイト代だけでは生活が苦しい。
 現状を知った新一は溜息をもらした。
 財布を開け、中から取り出したキャッシュカードを平次に差し出す。

「食費2人分。こっから使っていいから。今までの分も、全部」

 平次は、そのカードを受け取るのを躊躇っているようで、視線を落とすだけ。
 素直に受け取ろうとしない。
 その姿に苦笑し、無理矢理カードを握らせた。

「プライドとかあんのかもしんねーけど…大変なんだろ?ゴメンな。オレが気づいてやるべきだったんだ」

 カードを握ったまま動かない彼に、更に苦笑いしか出てこなかった。

 新一には分からなかったのだ。
 同じ年の学生の生活がどんなものであるのかが。
 子役の頃から、ずっと芸能界と言う世界に居た新一には。

「ええよ、もう。オレも悪かったんや。ええカッコしよう思ったから」

 言葉に顔を上げると、握らされたカードを掴み、頭を下げる平次が映った。

「ありがとう。使わしてもらう」

 言葉と同時に見せた笑顔はいつもの彼のもの。
 初めて会ったあの日に見た、あの…。

 次の日。
 銀行で、新一に言われた通り金を下ろした平次が、一緒に出た明細の残高に、新一とは逆の意味で目を丸くしたのは言うまでも無い。

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