MAGIC(+K)
通いなれた道。
見慣れた景色の中、昨日までは無かったと思われる店がある。
新一は不思議に思い、その扉を開いた。
店内は、よくあるアンティークショップのように見える。
だが導かれる様に進んだ店の奥。
一瞬、息をするのを忘れる程の出会いがそこにはあった。
初めは、少年がただ眠っているのだと思っていて。
近付いてよく見れば、それが人形であると分かったが。
驚く程に精巧な造りの人形の、閉じられた瞳。
その瞳が開いた所を見たいと、新一は思った。
そして、その手に触れてみようと手を伸ばした……――。
「……その子がお気に召しましたか?」
突然、背後から掛かった声に驚き、もう少しで触れようとした、その手を止める。
振り向けば、白いタキシードにシルクハット、右目にはモノクルと言う、風変わりな男が新一を見ていた。
「まるで生きているみたいでしょう?」
言いながら近付いてくるその男は、よく見れば新一とさほど年は離れていないように見える。
男が片手で人形の髪に触れると、サラサラとそれが指先から零れ落ちて行く。
「実は、本当に生きているんですよ」
すべてが指先から零れ落ちるのを見届けて、男がゆっくりと新一の方へ向いた。
その口元に、笑みが浮かぶ。
「……生きている?」
怪訝そうな顔を向ける新一に、男は一つ頷いて。
人形の右手を取ると、それを新一の方へと向けてきた。
どうやら、触れろ、と言っているらしい。
導かれる様に、差し出された手の、その指先に触れた。
その瞬間。
「眠り姫のお目覚めだ」
ピクリ、触れた指先が震えるように動く。
驚いて手を引き、もう片方で掴みながら、目の前で起きている出来事をただ眺めた。
ゆっくりと開かれる瞳。
唇から呼吸が漏れて。
開かれた瞳が、真っ直ぐに新一を捉える。
「嘘だろ……」
先程まで、人形にしか見えなかったそれは。
今や生気を宿し、本物の人間の少年にしか見えない。
新一を見つめる瞳が細められ、柔らかく笑った。
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