人魚姫(+快)
「死のうとしてた?平次が?そんな訳ない。だってあいつは……」
オレじゃなく、新一が好きなんだから。
言いかけて、それを自分が教えてしまうのも悔しくて。
快斗は言葉を飲み込んだ。
「教えてくれ。間違いなく、あいつはあの時の奴なんだよな?オレの勘違いじゃなく」
新一が真摯な瞳を快斗に向ける。
快斗は瞼を伏せて、一つ息を吐くと。
「そうだよ。『海に落ちた事はあるか』って、あいつがオレに訊いて来た事がある。それで分かった。ずっと、新一が……お前が探してた奴なんだって。洒落んなんねーよな。いくら双子だからって、同じ奴好きになるなんて」
伝えながら、僅かな笑みを浮かべて。
「……連れてけ。待ち続けた、本物の王子様には敵わねぇよ」
言って、終わると同時に席を立ち。
そのまま部屋を出て行ってしまった。
「お前だって本物の王子様じゃねーか」
小さく笑って、新一もまた、部屋を出てゆく。
向うのは、平次の部屋。
窓から見える月が、大きく光り輝いている。
その光も、聞こえる波音も。
全てが心地よく、そして懐かしい。
快斗の婚約が決まって、寂しかったのは事実。
新一と勘違いしていたからだけではなく、快斗と言う人物そのものも大好きだった。
だからあの日、全てを許して自分を預けて、次の日には婚約を告げられて。
相当心は傷ついた。
だから泡になるより先に、死んでしまえばいいと思った。
けれど。
「明かりもつけないで、月光浴か?」
振り返ると、戸口に誰かが立っている。
「快斗に聞いた。やっぱり、オレを助けてくれたのは、お前だったんだな」
話しながら、ゆっくりと近付くその人の顔が、月明かりに照らし出されて。
あの日と同じように、優しい瞳が平次を映す。
「あの日から、ずっと探してた。見つけたら、絶対に離さないって」
片膝をついて、ふわりと新一が平次を包み込んだ。
「快斗を好きでも構わない。これからは、ずっとオレの傍に居てくれ」
唇が触れて。
何かが、平次の頭の中で割れる音がした。
「オレ、お姫様ちゃうくて王子様なんやけど。そんでもええか?同じく王子様」
初めて聞く音と言葉に、新一の目が丸くなる。
同時に、久しぶりに聞く自分の声に、平次の瞳も丸くなる。
「……あれ。今のキスで、呪いが解けたんかな……」
「王子様とか呪いとか……お前、ホント何者な訳?」
目を丸くしたままの新一に、ふ、と微笑みかけて。
「何でもええやんか。あ、それともう一つ。快斗も好きやけど、オレがずっと好きやったんはお前や。お前に会いとーて、オレは自分の国捨てて来たんやから」
両腕でしっかりと、抱え込むようにして新一を抱いて。
「帰る場所、もう無いねん。ホンマに、ずっと。一生一緒に居ってくれる?」
極近くから、蒼い瞳を覗き込む。
その瞳が笑った。
「約束する」
月の放つ祝福の光が二人を包み。
重なるシルエットは、長く伸びた。
[ 238/289 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]