人魚姫(+快)

「王子!もう、またここに来てたんですか!何度も言っているでしょう?あの時は、新一様お一人だったんですよ。他には誰も居なかった」

「っせーな。居たモンは居たんだよ、オレを助けれくれた奴が。褐色の肌をした、深い緑の瞳の……」

 言いながら、新一と呼ばれたその人が、ゆっくりと再度平次の方を見た。
 その瞳が合う。

「絶対に……探し出して……。見つけたら……」

 伸ばされた手が、平次の頬に触れる。
 だが、兵士の言葉で、はっとしたように新一はその手を己に引き戻した。

「新一様!そろそろ快斗様の所に向わないと。伝えているお時間はとっくに過ぎているんですよ!」

「あー、もう!わーってるって!!いいんだよ、快斗は待たせときゃっ」

 新一は、平次の手を取ると。

「お前、何処に住んでんだ?お前を送ってから向うから、住んでる場所教えろ」

 少しぶっきらぼうにそう言った。
 平次は、取り敢えず丘の上にある、快斗の城を指差す。

「…は?お前、快斗んトコの奴なの?」

 平次が頷くと、新一は眉根を寄せて。

「つーか、さっきから何も喋らねーけど……もしかして、お前、口が利けない?」

 再度頷いたのを見て、新一は小さく溜息を吐いた。

「ま、いいや。向う場所が同じなら、手間も省ける。ほら、行くぞ」

 乱暴に引かれた手。
 平次は地面に落ちたままの短剣をちらりと見たが、引き返すつもりも、離すつもりも無いらしいその手に、引かれるままに快斗の城への道を進んだ。



「ってーか、何で新一が平次を連れてくる訳」

 城に着くと、新一が遅れてきた事に既に不機嫌だった快斗が出迎え、平次が一緒な事で、更にその不機嫌度は増していた。

「オレが一緒に居たら何かマズイのかよ。っつーか、平次って言うのか?」

 引き攣った表情の快斗をよそに、新一は平次を振り返って尋ねた。
 平次が小さく頷く。

「そうか、平次って言うのか」

 新一がふと優しい目を見せた。
 その雰囲気が、益々快斗の癪に障ったらしい。

「平次!いいからお前は自分の部屋に戻れ!新一、お前はコッチだ!!」

 怒鳴るように言われ、ビクっと肩を震わしてから、平次は奥の扉の方へと歩いていった。
 それを見送り、新一は快斗の後に続いて中央の階段を上る。



「平次とは、いつ何処で知り合った?」

 食事を採りながら、続いていた無言を破ったのは新一。
 手を止めて、真っ直ぐに向いに座る快斗を捉える。

「別に何処だっていいだろ」

 視線も合わせず、快斗は食事を続けた。

「あの岩場だろ?オレが話した」

 単語に、快斗の手の動きが止まり。
 少し睨むような視線が新一に向う。

「オレが探してるのを知ってて、オレに知らせなかったのは。あいつに特別な感情を持ったからか?」

「……だったら何だ」

「あんなに拒んでいた婚約を決めたのは、あいつと何かあったからだろ。オレが見つけた時。あいつ、死のうとしてた」

「な……に?」

 快斗の瞳が驚きで見開かれて。
 手にしていたナイフが床へと落ちた。

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