人魚姫(+快)

 とある海の底。
 そこには人魚達の住む王国がありました。
 人魚国には1人の姫と、一人の王子が居ります。
 王子の名前は平次。
 平次は、姉や両親から格別な愛情を受け、大切に育てられておりました。
 
 ある日の事。
 その日の夜は、近付いた嵐の影響で、海面は酷く荒れておりました。
 けれど水中はただ静かで、平次は夜の海中散歩を楽しんでいたのです。
 その最中。
 水面の方から激しい音が聞こえたかと思うと、一人の人間が沈んでくるのが見えました。
 どうやらその人間は、嵐で大きく揺れる船から投げ出されたようです。

 平次は人間を見るのが初めてでした。
 興味もあり、平次はその人間の方へと向かってゆくと、沈み行くその身体を支え、近くにある高波の来ない岩場までその人を運んで行ったのです。

 月明かりに照らされたその人間は、とても美しい顔をしておりました。
 閉ざされた瞳がどんな色なのか、どんな声で話すのか。
 平次はとても興味がありました。

 人間は、器官に水がつまり、どうやら呼吸をしていません。
 平次は己の唇を相手のそれに当て、何度か空気を送り込んでみました。
 すると人間は咳き込み、溜まっていた水を吐き出して、ゆっくりとその瞳が開かれたのです。

 その瞳は蒼く、深い色をしていました。
 平次に気付くと、蒼が優しくふわりと微笑みかけます。
 ですが、次の瞬間にはまた気を失ってしまったようで、その瞳は閉ざされてしまいました。

 平次が声をかけようとしたその時、誰かが此方へやってくる気配がします。
 慌てて海中へと沈み、その身を隠して岩場の陰に廻りこんで。
 平次はそこから様子を伺いました。

 来た人達の会話から、助けた人間が人間界の王子である事を知りますが、その名前までは知る事が出来ません。
 人間の王子は、その人達に運ばれてゆき、その後何度か海面や岩場へ出てみましたが、会う事は叶いませんでした。

 物語は、ここから始まります。

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