すたあの恋
「けど、ホンマに黒羽と連絡とらんでもええのか?とろう、思えばすぐとれんで?」
携帯を眺めながら平次が呟く。
ちなみに、その携帯のCMも新一がやっている。
奇跡と言うのは本当に凄い。
確かに、最初は快斗を頼るつもりでここに来た。
長年の友人である彼なら、自分の気持ちを理解し、匿ってくれるかも知れない、そう思って。
けれど。
「あ?ああ、いいんだ。だって、今ここに住んでいるのはお前だろ?お前の許可は貰ったんだし、黒羽も文句は言わねーよ」
フィールドは違えど、業界では同じように有名な快斗。
その彼と共に居るよりは、一般人のこの男と居る方が断然都合がいい。
「そうかぁ?」
渋々な感じで納得してくれたらしい相手に、頷いて笑みを返す。
問題は。
彼が何かの拍子で自分の事を知ってしまわないか。
その事だけ。
奇跡の終わりが来ないことを祈るのみ。
その時。
『これが僕らのL-スタイル』
聞き覚えのある声がテレビから聞こえた。
「…あれ。このテレビに映ってるの…」
まずい。
心臓が一気に縮む感覚がする。
そりゃそうだ。
いくらとんでもない芸能音痴と言えど。
本物を目の前にして、CMやポスターなんかを目にしたら…そりゃ気付いて当然。
奇跡なんて、やっぱり儚い夢なのかな…。
諦めて、口を開こうとした、その瞬間。
「自分によぉ似てんな。ゆわれへん?」
耳に届いた言葉に、一瞬で目が点になる。
「…え」
今、コイツ何つった…?
「けど、こーゆー人らは、オレら一般人と違て、遊ぶ暇もあらへんのやろな。オレ、ホンマ一般人で良かったわ」
…わざとか?
関西人のボケなのか…?
本気でそう思うほど、有り得ない言葉をこの男は言っている。
でも、それが本心からの言葉だったら・・・?
「…そんな、似てるか?」
恐る恐る訊いてみる。
彼の瞳が自分を捉え、次の瞬間には笑顔を向けて。
「おう。けど、テレビの兄ちゃんのが男前やな」
そう返して来た。
そりゃテレビ用の化粧のせいだよ。
突っ込みたかった。
けれど。
今も不思議そうに自分を見ている。
彼のその言葉は、嘘じゃない。
奇跡は、やはりある。
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