DISTANCE
あったのは温度差ではなくて、遠慮。
流石は古風な家で育った男。
相手の男を立ててくれる配慮、そして優しさを持っている。
だが、それ故に恋愛表現は本当に下手だ。
「……何やこれ?」
出させた右手の薬指。
嵌めた指輪はサイズもぴったり。
「見て分かるだろ。ペアリング」
言って、自分の右手を見せる。
暫く交互にそれを眺めて、溜息を吐くと、いきなり外そうとする。
「おいコラ、即行かよ」
「オレ、指輪とかようしやん。邪魔や」
言うと思って、用意していたチェーンを渡す。
「じゃ、指じゃなくて、ネックレスならいいよな?」
「いや……ちゅうか、ペアリングとか…」
続きは言わせない、と言わんばかりに先行を打つ。
「遠山さんのお守り、前はずっと首にかけてただろ。首は平気だって事だよな?そして当然、オレからのプレゼントなんだから、常に身につけるよな?」
ニコリ笑みを向けると、服部は諦めたようにそのチェーンを受け取った。
受け取ったそれに、指から抜いた指輪を通す。
「今、通す時に見えたのやけど……正気かお前。どんなツラしてこの文字頼んだんや……」
鎖に通って下がる指輪を見ながら、服部が少し固まっている。
「こんなツラ」
特上の笑みを向けてやると、脱力と共に大袈裟な程の溜息が聞こえた。
恋愛感情の表現が下手ならば。
お揃いのリングを、常に身に着けて居てくれる事が、表現の代わりになる。
「有り得へん……。恥かしゅうて、オレこのブランド入っとる店、もう行かれへん」
ブツクサ言いながらも、付けようとしてくれてる辺り、やっぱイイ奴だと思う。
あの日以来、以前よりはずっと表現もしてくれるようになった。
遠慮しなくなった分、言葉とか態度がきつい時もあるけど。
「別の店行けばいいだけじゃん」
「そーゆー問題ちゃうわアホ。……あー、イヤや……落として拾われたら、その場で死ねる」
それでも、幸福度は増している。
そう思える。
「うん、だから、ぜーったい!失くすなよ」
首から下がる、リングを指で弾いて。
とびきりの笑顔をまた向けて。
困り顔のその人の、頬に優しく口付けた。
リングの文字は。
『We have great love for each other. Shinichi&Heiji』
お互いにとても、愛し合っている。
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